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電子廃棄物は「宝の山」、都市鉱山の採掘がビジネスチャンスに金属を回収して再利用する

年々増加し続ける電子廃棄物。ここからレアアースなどの原材料を抽出し、リサイクルするのが「電子廃棄物マイニング」だ。この技術を確立し、活用できる仕組みを作れば、廃棄物を資源に変えることができる。

» 2023年11月02日 11時30分 公開
[Al TibaEE Times]

増え続ける電子廃棄物

画像はイメージです(写真:John Cameron on Unsplash

 電子廃棄物(e-waste)は世界中で毎年数百万トンずつ増え続けており、急速に世界最大の廃棄物の一つになりつつある。しかし、旧式のデバイスや欠陥のあるデバイスを貴重な原材料に戻すことができるとしたらどうだろうか。電子廃棄物からの原材料の抽出、つまり「電子廃棄物マイニング」は、廃棄物を持続可能な資源に変えることができる。

 世界の電子廃棄物に含まれる原材料の価値は、2019年には約570億米ドルだった。電子廃棄物の年間発生量は数千万トンで、毎年3〜5%ずつ増加している。世界の電子廃棄物のうちリサイクルされるのはわずか17%ほどで、南北アメリカでは10%未満である。残りの電子機器廃棄物は、埋め立て地に投棄されるか、焼却されるか、制約なく取引されるかのいずれかで、環境や健康、国家安全保障に深刻なリスクをもたらしている。

 障害となっているのは、電子廃棄物のリサイクルとマイニングの増加につながる規制とインフラを確立する機関が必要なことだ。消費者や小売業者から古い電子機器を回収することを奨励するプログラムや、電子廃棄物の管理組織による回収したデバイスの処理、実用的な法律は全て、電子廃棄物マイニング産業の成長を促進するために不可欠である。

 電子機器には、金、銀、プラチナ、パラジウム、銅などの貴金属や、希土類(レアアース)元素、その他の有用な材料が含まれているため、寿命を終えた電子廃棄物の効果的な管理は利益につながる可能性がある。

 一例として、1トンのスマートフォンには約300gの金が含まれている。一方、金鉱石に含まれる純金は、1トン当たり平均5gほどである。銅など、他の一般的な金属についても同様だ。人工の二次鉱石を活用することは、電子廃棄物が増え続けるのを抑制するだけでなく、収益性の高い代替品を活用して新たなマイニングの必要性を減らすためにも重要になる。

微生物の力を借りる「バイオマイニング」

 バイオマイニングは、多様な微生物群によって電子廃棄物から金属を浸出させる手法だ。バイオリーチング(bioleaching)とも呼ばれる。電子廃棄物のバイオ処理は操作が比較的簡単で、特定の金属に対する選択力が高い。最近の研究のほとんどは技術成熟度レベルが4を超えており、テストがセミパイロットレベルで実施されたことを示している。報告された金属のバイオリーチング効率は、通常3〜7日間で50〜99%だった。

 バイオマイニング技術は持続可能性の点では魅力的だが、化学的手法ほど費用対効果が高くなく、運用には電子廃棄物1kg当たり約7米ドルの費用がかかる。前述した試算で考えると、スマートフォン1kg当たり約19米ドルの金が得られることになる。

 特殊な化学的方法により、電子廃棄物から貴金属を選択的に回収することもできる。

 例えば、PCB(プリント配線板)を酸槽で溶解し、個々のコンポーネントに分離する。その後、耐酸性の多孔性ポリマーを加え、溶液から金イオンを選択的に捕獲する。ポルフィリンやシクロデキストリンなどの生体高分子は、金と強い親和性を持つ空洞(キャビティ)を含んでいる。この新しい方法では、電子廃棄物から99.6%の純度で金を回収できることが実証された。

 こうした電子廃棄物の採掘プロセスは、低コストで予測可能であり、環境に優しい。持続可能な都市鉱山技術を導入することで、環境に溶出する有毒物質や発がん性物質の量を減らすことができる。使われなくなった電子機器を無制限に売買するのとは対照的に、電子機器廃棄物の採掘は国家安全保障上も望ましいものであり、機器が分解され、機能的な部品が偽造品を製造しようとする団体に届かず、再利用されることもない。

 電子機器の新たな二次市場は、電子廃棄物のサプライチェーンを単純化する。電子廃棄物を採掘し、リサイクルする資格を持つ組織や企業には、高額の在庫を現金に換える十分なビジネスチャンスがある。

 電子廃棄物から金属を回収する技術の進歩は、都市鉱山からの原材料の需要を促進し、消費者レベルで行われるリサイクルの取り組みにつながる可能性がある。電子廃棄物からの資源採掘は、課題を利益に変えるという好例の一つになるかもしれない。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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