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使用済み電池からリチウムを回収する分離膜を開発東レ「早期実用化目指す」

東レは2022年8月、使用済みリチウムイオン電池からリチウムを回収できるナノろ過(NF)膜を開発したと発表した。既に現役を用いた回収評価を開始し、早期実用化を目指すとしている。

» 2022年08月31日 13時30分 公開
[竹本達哉EE Times Japan]

供給懸念があるリチウムを高純度かつ高収率で回収

 東レは2022年8月、使用済みリチウムイオン電池からリチウムを回収できるナノろ過(NF)膜を開発したと発表した。既に現役を用いた回収評価を開始し、早期実用化を目指すとしている。

 リチウムは、電気自動車の普及などに伴って需要の拡大が見込まれている。現状、リチウムの主な供給源は、「塩湖からかん水をくみ上げ、半年から1年半かけて天日による濃縮精製工程を経てリチウムを生産する方法」(東レ)という塩湖法であり、リチウム産出量の多い塩湖の数が限られている。塩湖法とは別に、「鉱石を採掘後、選鉱、焙焼、浸出、精製工程を経てリチウムを生産する方法」(東レ)である鉱石法もあるが、「生産工程が長く、高温での熱処理が必要になることから、CO2排出量が多く、大幅なコスト高となるため、高価格が既に課題となっているリチウムイオン電池がさらに高騰するリスクがある」(東レ)とする。

 リチウムを新たに生産することが難しい中で、現状、使用済みリチウムイオン電池のリチウムの大部分は破棄されており、これを回収、再利用することでリチウムの供給懸念を解消できると期待される。

 そうした中で東レは、開発した新たなNF膜により、使用済み車載用リチウムイオン電池からリチウムを高純度かつ、高収率で回収することができるようになるとする。

NF膜の課題をDX技術用いて解消

 NF膜は、溶解している多価イオンや有機物を選択的に分離する特長を持ち、地下水や河川水から硬度成分や農薬を除去する用途をはじめ、食品/バイオ用途で脱塩/精製などに用いられてきた。ただ、一般的なNF膜は、強酸に対する耐久性が弱く、適用範囲が中性領域に限られた他、多価イオンに対する選択分離性が低いなどの課題があった。こうした課題のために「使用済みリチウムイオン電池から、強酸を用いて有価金属を浸出、回収する試みに対し、NF膜を適用することができなかった」(東レ)とする。

 東レでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)技術を活用し、酸による膜の性能劣化メカニズムと選択分離に最適な膜の細孔構造を解析。その上で、強固な耐酸性構造と、1mm以下の精密な細孔構造を兼ね備える架橋高分子膜の創出に成功したという。開発したこのNF膜は、従来のNF膜に比べ約5倍の耐酸性と約1.5倍のイオン選択分離性を実現。「本NF膜を適用することにより、有価金属を効率的に回収でき、現状では大部分を廃棄しているリチウムを、高純度かつ高収率で回収することが可能になる」(東レ)。また同社では、1kgのリチウムを製造する際のCO2排出量を、鉱石法に比べ最大約3分の1に削減できるとしている。

 東レでは今後、「自動車メーカー、電池メーカー、電池材料メーカー、リサイクル業者などと連携し、リチウムのリサイクル方法を確立することで、電気自動車普及に伴うリチウムの供給懸念を解消し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していく」としている。

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