2023年も間もなく終わりを迎えます。そこで、EE Times Japan編集部のメンバーが、半導体業界の“世相”を表す「ことしの漢字」を考えてみました。
筆者が選んだ漢字は「灯」です。
「熱」や「火」を連想させる出来事が多かったことが、理由の一つです。コロナ禍の部品不足に端を発した半導体投資への熱は、ことしも冷めることがありませんでした。各国/地域の政府は半導体政策を継続的に更新し、工場の誘致や、半導体関連企業への補助金支給などの発表が相次ぎました。半導体の重要性に対する認識は、政府にもしっかり根付いていると感じます。
一方で、半導体業界のサプライチェーン/エコシステムの構築には黄信号が灯って(ともって)います。
まずは苛烈さを増す米国の対中規制です。「国家安全保障上の理由」という大義名分の下で発表/施行される規制の中には、非現実的なものも少なくありません。米半導体メーカーからの反発の声も高まりつつあります。
過酷な規制が続く中でHuaweiが発表した5G(第5世代移動通信)スマートフォン「Mate 60 Pro」は、大きな話題となりました。中国初とされる5G SoC(System on Chip)「Kirin 9000S」が、中国のファウンドリーSMICの7nm世代のプロセスで製造された可能性が高いことが判明したからです(関連記事:「米制裁下のHuaweiが開発、初の中国製5Gチップを分析」)
中国の半導体開発力が急成長していることは何年も前からいわれていることですが、そのスピードは恐らく米国の想定以上なのではないかと思います。規制や制約が好機となることは度々ありますが、米国の過度な自前主義によって火が付いた中国の半導体の開発熱は、当面冷めることはないと思われます。
米中の対立以外では、戦火が続くウクライナに加え、イスラエルとハマスの武力衝突が始まってしまいました。どちらの戦争も終わる気配がない上に、イスラエルには半導体工場や研究開発拠点も多いことから、半導体業界への影響も懸念されています。ですがそれ以上に、こうした戦争で使われている兵器にも半導体が欠かせないということに思いを巡らせた業界関係者の方も多いのではないでしょうか。
半導体関連メーカーや開発者、エンジニアの方を取材していると、自分たちの技術が少しでも世の中に役に立ってほしいという気持ちを感じ取ることが少なくありません。そしてことしも、産業機器や民生機器から医療、通信、一次産業まで、あらゆる分野で課題解決や価値創造につながりそうな、新しい半導体技術が発表されました。不安な気持ちになるニュースや出来事も多い中、少しでも明るい未来を想像できる技術を取材することで、私自身の気持ちが前向きになったことも多々あります。
良くも悪くも政策や外交の切り札になることが多い半導体技術ですが、対立の火種となるものではなく、希望を灯す存在であってほしいと願っています。
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