現在、EUV(極端紫外線)露光装置の唯一のサプライヤーであるオランダASMLの売上高が「絶好調」だ。本稿では、ASMLの過去3年間の売上高を分析し、ASMLの成長の変曲点を特定する。さらに、今後のASMLの成長を展望する。
SEMIは2023年12月12日、2023年の世界半導体製造装置市場は、過去最高となった2022年の1074億米ドルから6.1%減少する見通しであることを発表した。ところが、そのような減少見通しをものともせず、売上高を飛躍的に拡大させている装置メーカーがある。露光装置分野で市場シェア90%超を独占しているオランダのASMLだ。
図1は、主な装置メーカーの売上高推移を示したグラフである。この図では、上位5社についてのみ、各社の決算報告書を基に2023年までの売上高を記載した。すると、ASMLが米Applied Materials(AMAT)を抜き去って、世界1位に躍り出たことが明らかになった。ここ4〜5年のASMLの成長ぶりはすさまじく、売上高のグラフの傾きが垂直に近づいているように感じるほどだ。
あらためて図1を見てみると、5位以上と6位以下では、非常に大きな差があることが分かる。1位のASMLが298億米ドル、2位のAMATが265億米ドル、3位の米Lam Researchが174億米ドル、4位の東京エレクトロン(TEL)が157億米ドル、5位の米KLAが105億米ドルであるが、6位のSCREENが(2022年の売上高ではあるが)22.3億米ドルしかない。もはや、6位以下の装置メーカーが5位以上に食い込むことは、奇跡でも起きない限り、あり得ないようにも思える。
さらに、上位5社についても、「1位ASML&2位AMAT」と「3位Lam&4位TEL」の間には大きな隔たりがある。また、5位のKLAも3位&4位とは大きく差がついている。このような状況から、上位5社の間でもランキングがほぼ決まっており、「ASMLとAMATによるトップ争い」や「LamとTELによる3位争い」はあるだろうが、今後あまり大きな順位の入れ替えは無いかもしれない。
それにしても、ASMLの快進撃には驚かされる。そこで本稿では、ASMLの爆発的な成長の源泉にはどのような要因があるのかを明らかにしたい。まずは、ASMLのここ3年間の四半期の売り上げについて分析する。次に、2011年〜2023年の12年間の売上高を俯瞰することにより、ASMLの成長がギアチェンジをした変曲点を特定する。さらに、今後のASMLの成長を展望する。
結論を先に述べると、ASMLの高成長の要因には、最先端のEUV(極端紫外線)露光装置の普及と中国によるArF液浸露光装置の爆買いがあると推測した。また、昨年(2023年)末から2024年にかけて、ASMLはEUVの次世代版High NAを10台出荷すると報道されている。レンズの開口数(NA)が0.55のHigh NAは、現在使われているEUV(NA=0.33)の2倍以上の価格であるといわれる。従って、今後もASMLの圧倒的な高成長が続くと予測される。
図2に、ASMLの四半期ごとの露光装置の出荷台数を示す。ASMLにおいて、最も出荷台数が多いのはKrFであることが分かる。そのKrFは、2022年Q1あたりまでは、四半期でおおむね30台前後だったが、その後、出荷台数が増大していき、2023年第4四半期(Q4)には54台を記録した。これは、近年世界各国/地域で、半導体製造能力を抱え込もうとする動きに起因すると考えられる。というのは、KrFは最先端でもレガシーでも、半導体の製造には万遍なく必要とされるからだ。
KrFの次に出荷台数が多いのはArF液浸である。ArF液浸の出荷台数は、2022年までは四半期でおおむね20台だった。ところが、2023年に入って、Q1に25台、Q2に39台、Q3に32台、Q4に29台と出荷台数が急増している。これが、中国(特にSMIC)による爆買いだろうと推測している。
その背景には、米国による中国への輸出規制にオランダが足並みをそろえることになり、2023年9月以降、ASMLがArF液浸を中国に輸出できなくなったという事情がある。そこで、SMICなどが、輸出禁止になる前に駆け込みでArF液浸を大量発注したため、ArF液浸の出荷台数が急増したと考えられる。
KrFとArFに次いで出荷台数が多いのは、EUVとi線で、四半期でおおむね十数台前後となっている。そして、最も出荷台数が少ないのはArFドライで、四半期で5〜10台程度である。
それでは、ASMLにおける露光装置別の売上高はどうなっているだろうか?
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