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驚異的な成長で装置メーカートップに躍り出たASML 背景にEUVと中国の「爆買い」湯之上隆のナノフォーカス(70)(3/5 ページ)

» 2024年02月20日 11時30分 公開

2023年に7nmを「開発」したSMIC

 半導体調査会社のカナダTechInsightsは、Huaweiが中国国内で発売したスマートフォン「Mate 60 Pro」に搭載されているプロセッサ「Kirin 9000s」を分析したところ、中国のSMICで製造された7nmプロセスを採用していることが分かったと報じたという(劉尭、PC Watch、2023年9月5日、参考)。

 その後、中国のSMICが7nmを開発したことに米国政府が驚いたというニュースが飛び交った(例えば、2023年11月22日付のBloombergの記事「日米驚かせたSMICの先端半導体−中国のテクノロジー自立進展か」)。

 しかし筆者は、「米国が驚いた」ことに驚いた。というのは、ArF液浸とSADP(Self-Aligned Double Patterning)やLELE(Lito-Etch-Lito-Etch)などのダブルパターニングの技術を組み合わせれば、7nmの半導体を開発することが可能だからだ。それどころか、ダブルパターニングを2回繰り返すSAQP(Self-Aligned Quadruple Patterning)などを使えば、5nm相当の半導体も開発できるだろう。恐らく、SMICは、7nmの次の5nmの開発を行っているに違いない。

 ただし、たとえSMICが7nmや5nmを開発しても、世界に与えるインパクトは小さいと筆者は考えていた。それは、SMICは7nmも5nmも、大量生産することができないと確信していたからだ(ここまで筆者は「SMICが7nmを開発した」と書いてきたが、「製造した」とは一度も書いていない)。その根拠は、SMICの7nmの生産キャパシティーは月産で1万枚程度しかなく、歩留りも50%に遠く及ばないということを関係筋から聞いていた。

SMICによるArF液浸爆買いのインパクト

 ところが、SMICがArF液浸を爆買いしたことによって事情が変わる可能性が出てきた。SMICがArF液浸を何台買ったかは正確には分からないが、前掲の図3から2023年に四半期に20台を超えるArF液浸を全てSMICが購入したと仮定すると、SMICは2023年の1年間で最大45台のArF液浸を導入した可能性がある。

 すると、月産1万枚程度だったSMICの7nmのキャパシティーは、いずれ5〜6万枚以上に拡張されてもおかしくない。そして、半導体は物量を流すことによって歩留りを向上させることができる。となると、数年後にはSMIC製の7nmチップが世界を席巻することも十分あり得るのである。このような事態になったとき、本当に「米国が驚く」ことになるだろう。

 ただし、ArF液浸+SAQPで5nmを大量生産することは相当難しい。工程が複雑となるため、歩留りを上げることが困難だからだ。そして、SMICは今以上にArF液浸を導入できないはずだから、7nmのキャパシティーはあるところで頭打ちになると思われる。

 さて、話をSMICからASMLに戻す。

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