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驚異的な成長で装置メーカートップに躍り出たASML 背景にEUVと中国の「爆買い」湯之上隆のナノフォーカス(70)(4/5 ページ)

» 2024年02月20日 11時30分 公開

ASMLの露光装置の出荷台数の推移

 図2では、ここ3年間の露光装置別の出荷台数を分析した。しかし筆者は、もっと長期的に、ASMLが、どの露光装置を何台出荷してきたかを明らかにしたいと考えた。そこで、ASMLのアニュアルレポートを可能な限り読み解いて、2011年〜2023年における露光装置別の出荷台数をグラフにしてみた(図5)。本当は、2010年以前も知りたかったのだが、残念ながら2010年以前のアニュアルレポートには露光装置別の出荷台数が記載されていなかった。

図5 ASMLの露光装置別の出荷台数[クリックで拡大] 出所:ASMLのアニュアルレポートおよび決算報告書のデータ等を基に筆者作成

 あらためて図5を見てみると、2019年以降、KrFの出荷台数が急増していることが分かる。2019年以前は年間で80台以下だったが、2020年から直線的に増大し、2023年には184台が出荷された。この理由は前述した通り、2020年以降、世界各国/地域で半導体製造能力を抱え込もうとする動きが活発になり、先端にもレガシーにも必要なKrFの需要が急拡大したことにある。

 一方、ArF液浸は、毎年80台前後の出荷台数だったが、2023年に、恐らく中国の爆買いなどによって約1.5倍の125台に急拡大した。しかし、2024年以降は、中国の爆買い騒動は沈静化するはずなので、ArF液浸の出荷台数は減少するかもしれない。

 それ以外では、2023年に、出荷台数が多い順に、i線が55台、EUVが53台、ArFドライが32台となっている。そして、これら3種類の露光装置はいずれも、2016年頃から増加傾向にある。

 では次に、ASMLにおける露光装置別の売上高を見てみよう。

EUVの売上高が急拡大

 図6に、2011年〜2023年におけるASMLの露光装置別の売上高推移を示す。2019年までは、ArF液浸の売上高が最も大きかったが、2016年頃からEUVの売上高が急拡大していき、2020年にEUVがArF液浸を抜いてASMLの最大の稼ぎ頭になった。ところが、2022年以降、恐らく中国による爆買いによってArF液浸の売上高が急上昇し、2023年にEUVが92億1400万ユーロ、ArF液浸が89億9500万ユーロと、ほぼ同じ規模の売上高となった。

図6 ASMLの露光装置別の出荷額[クリックで拡大] 出所:ASMLのアニュアルレポートおよび決算報告書のデータ等を基に筆者作成

 また、EUVとArF液浸以外も、売上高が増大する気配となっており、2023年には大きい順に、KrFが21億9400万ユーロ、ArFドライが8億7800万ユーロ、i線が2億1900万ユーロとなった。

 では、2024年以降はどうなるだろうか? ArF液浸は、中国への輸出が制限されるため、2024年以降は一時的に売上高が低下すると思われる。

 一方、ArF液浸以外の露光装置は売上高が増大するだろう。その中でも特に、EUVの売上高の増大が顕著になると考えられる。その理由は、NA=0.33のEUVの出荷台数が増大し続けるとともに、High NAの出荷が本格的に始まるからだ。

 そのHigh NAの装置価格は、2024年2月10日付のReutersの記事によると、3.5億米ドルであるという。1米ドル=150円とすると、High NAは525億円ということになる。これは、NA=0.33のEUVの価格240億円の2倍以上である。

 そして、ASMLは、2023年末に米Intelに出荷したHigh NAを含めると、2024年中に10台のHigh NAを出荷するという記事が出回っている。これが事実なら、2024年のEUVの売上高は途方もなく高水準になるだろう。なお、この10台のHigh NAのうち、6台をIntelが確保したと推定されている。これに加えて、2028年までに年間20台のHigh HAを生産可能にする計画もあるという(関連記事:「1台3億8000万ドル、重量は150トン――明かされる高NA EUV露光装置のスケール」)

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