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驚異的な成長で装置メーカートップに躍り出たASML 背景にEUVと中国の「爆買い」湯之上隆のナノフォーカス(70)(5/5 ページ)

» 2024年02月20日 11時30分 公開
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ASMLの地域別の売上高

 図7に、2011年〜2023年におけるASMLの地域別の売上高推移を示す。2011年〜2018年頃までは、台湾、韓国、米国の3カ国が、売上高1〜3位を占めていた。ところが、米国が2018年以降、横ばいになるのに対して、台湾と韓国が大きく売上高を増大させた。これは、台湾のTSMCと韓国のSamsungが競ってEUVを導入したことに大きく起因していると考えられる。

図7 ASMLの地域別の売上高[クリックで拡大] 出所:ASMLのアニュアルレポートおよび決算報告書のデータ等を基に筆者作成

 そして、中国が2020年に米国を抜き、2023年に大きく売上高を増大させ、2023年は韓国を抜き、もう少しで1位の台湾に並ぶほどの成長を見せた。2023年の売上高は、大きい順から、1位の台湾65億8200万ユーロ、2位の中国が63億6200万ユーロ、3位の韓国が52億6500万ユーロ、4位の米国が21億9400万ユーロ、5位の欧州が8億7800万ユーロ、6位の日本が4億3900万ユーロ、7位のシンガポールが2億1900万ユーロとなった。

 そして今後どうなるかを考えると、2022年から2023年に売上高が減少した台湾と韓国は、2024年以降は再び上昇に転じるだろう。また、High NAを合計6台も導入する米国も大きく上昇するに違いない。一方、ArF液浸の爆買いができなくなる中国は、2024年以降は売上高が減少すると思われる。

ASMLの今後の展望

 最後に、ASMLの2011年〜2023年までの売上高を振り返り、2024年以降を展望したい(図8)。ASMLの売上高がギアチェンジした変曲点は2つあるように見える。

図8 ASMLの売上高および営業利益[クリックで拡大] 出所:ASMLのアニュアルレポートおよび決算報告書のデータ等を基に筆者作成

 一つは、2016年であり、この年から本格的にEUVの出荷が始まったので、それがギアチェンジをもたらしたと考えられる。

 また、2022年にも変曲点があるように見える。これは、中国によるArF液浸の爆買いによるところが大きいと思われる。

 そして、2023年から2024年にかけて第3の変曲点が出現する可能性が高い。それは、1台3.5億米ドル(約525億円)のHigh NA効果によるものであると推測される。

 High NAの1号機は米Intelに2023年12月末に導入された(図9)。前述した通り、ASMLは2023年から2024年に合計10台のHigh NAを出荷すると報道されている。もし、これが事実なら、間違いなく、2023年から2024年に第3の変曲点が出現することになるだろう。

 以上を総括すると、製造装置メーカーの売上高ランキングで、当分の間はASMLが1位の座に君臨し続けると思われる。真のASMLの時代がやってきたと言えそうである。

図9 米Intelのオレゴン工場に世界初のHigh NAが到着[クリックで拡大] 出所:ASMLの2024年1月24日の決算報告書のスライド

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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。


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