Teresa Cervero氏は、BSCで欧州のRISC-Vイニシアチブに取り組んでおり、バランスの取れた見方を提供する。同氏は、欧州の安全保障上および経済的な利益のためには、半導体主権が重要であるという見解に同意している。
Cervero氏は、「RISC-Vは、オープンソースかつローヤリティフリーであるため、半導体主権を実現する上で理想的なプラットフォームだ」と指摘する。同氏は、欧州が知識と設計に関して強みを持っているという点は認めているが、完全に独立するという非現実的な期待に対しては注意を促し、半導体業界のエコシステムの複雑性を強調している。
またCervero氏は、「欧州は、知識の面で強みを持ち、ソリューションを設計開発する可能性を秘める。官民機関が、製造段階を強化するためにインフラ(クリーンルーム)を構築する動きを見せている。中期的な見解としては、施設を活用できるようにするためには経済的な投資だけでなく人材も必要になるだろう」と述べる。
BSCは当初、スパコン向けにArmベースのプロセッサを使おうとしていた。また、Samsung Electronicsのスマートフォン「Galaxy」の半導体チップも使用したという。Valero氏は「われわれは、スマートフォンから半導体チップを取り出し、それを数千個規模で接続した」と述べている。
Valero氏は、「英国のEU離脱や、ソフトバンクによるArm買収の後、EUには、欧州独自のプロセッサが存在しなくなるという問題があることが分かっていた。だがそれは、7年前にRISC-Vが登場するまでのことだった。RISC-Vは欧州をはじめ、世界中のあらゆる企業がプロセッサを作ることができるという可能性を開いた。米国や欧州、中国が命令セットを決定するのではなく、グローバルな命令セットであるからだ」と述べる
Valero氏は2019年に、欧州委員会(EC)に対し、スパコン向けのRISC-V半導体チップの製造開始を支援するよう説得した。これが、EPIの始まりである。
「EPIは、欧州企業3社が参加する産業プロジェクトで、そのうちの1社が、BSCのスピンオフであるOpenChipだ。OpenChipが独立企業として、われわれがBSCで長年にわたり取り組んできたもの全てを継続できるよう、サポートを提供していく。こうした開発に取り組むことで、NVIDIAに対する競争力を実現していくだろう。NVIDIAは立派なオフィスを所有しているが、われわれは掘っ立て小屋からスタートした企業だ。3年後には非常に競争力のある半導体チップを開発し、大きな目標として、6年後にはRISC-Vベースのチップを『MareNostrum 6』(スペインにあるスパコン)に搭載したいと考えている」(Valero氏)
Cervero氏は、RISC-V製品を提供する欧州企業の例として、GaiserやEsperanto Technologies、Semidynamics、Codasipなどを挙げている。これらの企業は、最終的なソリューションとして使われるSoC(System on Chip)やプラットフォームではなく、プロセッサやアクセラレーターを重視している。
さらにCervero氏は、「欧州には、RISC-V関連の起業家精神が欠けており、サービスや製品、ソリューションなどを市場に提供するスタートアップや中小企業の数が少ない。それは、時期尚早であるためか、大きな魅力がないからだろう。
Cervero氏は、(半導体における)“完全な主権”という非現実的な期待に警鐘を鳴らし、複雑な半導体業界をけん引するための戦略的な協力体制の構築を呼びかける。「欧州だけでなく、どの地域にとっても、半導体産業において主権を持ち、独立できると考えるのは非常に難しい。材料、精密機械、知見など、さまざまな要素が絡み合う。欧州は、7nm世代までの製造技術になら、賭けることができるだろう。だがそれ以降のプロセスはコストが高過ぎる。(中略)戦略的にRISC-Vに賭けることに対する半導体業界の関心は高い。大手半導体メーカーはRISC-Vに投資しているが、その成果についてはまだ公表されていない」(同氏)
こうした課題があるにもかかわらず、EUはRISC-Vチップで主導権を握るべく、前進し続けている。BSCはこうした取り組みにおいて主導的な役割を果たしていて、その活動は欧州がRISC-V技術開発のリーダー的存在となる一助となるだろう。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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