TSMCが、半導体前工程を担う熊本第一工場に続いて、日本に先進パッケージング工場を建設することを検討していると報じられている。
半導体業界を再興するための日本の取り組みは、さらに勢いを増しそうだ。複数メディアが、TSMCが日本に先進パッケージング工場を日本に設置する検討をしていると報じている。これは、70億米ドルを投じた熊本第一工場に続く、合理的な展開といえるだろう。
地政学的緊張によって台湾以外の半導体サプライチェーン多様化が検討される中、後工程のパッケージング施設が前工程工場に続き、日本の半導体製造エコシステムを補完することになる。業界専門媒体に加え、ロイター通信もTSMCが日本に先進パッケージング工場を建設することを検討していると伝えている。
特筆すべき点として、TSMCは2021年に茨城県つくば市に先進パッケージング技術の研究開発(R&D)施設である「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」を設立している。AI(人工知能)やHPC(高性能コンピューティング)用途向けのハイエンドチップによって、先進パッケージング技術の需要は急速に高まっている。また、チップレットの台頭も先進パッケージング技術が脚光を浴びている要因といえる。
こうした要素に後押しされ、世界最大の半導体ファウンドリー企業であるTSMCはパッケージング能力の拡張を計画している。実際に、同社は既に台湾南部の嘉義市に新たなパッケージング工場を建設する計画に乗り出している。一方、台湾の市場調査会社TrendForceのアナリストであるJoanne Chiao氏は「日本にTSMCの先進パッケージング工場が設置されたとしても、その規模には限界がある」と指摘している。TSMCのパッケージング関連の顧客の大半が米国を拠点としていることが主な理由だ。
新工場が建設されれば、TSMCのパッケージング技術「CoWoS」(Chip on Wafer on Substrate)が日本に持ち込まれることになる。CoWoSはTSMCが開発した2.5次元のウエハーレベルのパッケージング技術で、これを用いると複数のダイを単一の基板上に集積できるようになり、既存のパッケージング技術よりも高い性能と集積密度を実現できる。現在、同技術の拠点は全て台湾にある。
TSMCにとってみれば、日本にパッケージング工場を設置すれば、日本の主要な半導体材料や装置のサプライヤー、そして強固な顧客基盤によりアクセスしやすくなる。また、日本政府からの手厚い助成金も享受できる。この助成金は、韓国や台湾に押され気味だった日本の半導体産業を再び活性化することを狙ったものである。
ただし、ロイター通信も報じた通り、日本でのTSMCの先進パッケージング工場の建設規模やスケジュールについて現段階で決定されたものはない。TSMCもこの報道に関するコメントを拒否している。しかし、業界観測筋はTSMCが日本に先進パッケージング工場を建設することを確実視している。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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