大阪大学や名古屋大学、三重大学、関西学院大学および、高輝度光科学研究センターの研究グループは、反強磁性体であるクロム酸化物薄膜を用い、スピンの向きを電圧で制御することに成功した。制御効率は従来の強磁性体に比べ50倍以上も高いことを確認した。
大阪大学や名古屋大学、三重大学、関西学院大学および、高輝度光科学研究センターの研究グループは2024年4月、反強磁性体であるクロム酸化物(Cr2O3)薄膜を用い、スピンの向きを電圧で制御することに成功したと発表した。制御効率は従来の強磁性体に比べ50倍以上も高いことを確認した。
研究グループは最近、Cr2O3をナノメートル領域まで薄くするとスピン情報が強く表れ、反強磁性体のスピンが制御できることを明らかにしていた。しかし、磁性を電圧で直接制御するまでは至っていなかった。
そこで今回、「電気磁気効果」と呼ばれる磁性と誘電性の結合効果に着目。この効果を利用しCr2O3薄膜のスピンを電圧で制御したところ、磁場を変えず電圧の変化だけで反強磁性体のスピン方向を反転できることが分かった。
スピン反転条件は、電圧や磁場の強さにより変えることができ、その変調効率(単位電界あたり)は従来の強磁性材料を用いた時に比べ、50倍以上も高いことを確認した。また、電圧の向きでスピンの向きを選択できることも明らかにした。
観測した現象の起源を解明するため、大型放射光施設「SPring-8」のBL25SU(軟X線固体分光ビームライン)やBL39XU(磁性材料ビームライン)を用い、X線磁気円二色性測定を行った。この結果、Cr2O3と電極金属(Pt)との接合界面にあるクロム(Cr3+)スピンが反転しており、電気磁気効果による磁性制御に重要な役割を果たすことが分かった。また、Pt自体の磁性による効果は無視できるほど小さく、観測されたスピン制御が従来の強磁性体とは異なるメカニズムで発現していることも明らかにした。
さらに、実験と第一原理計算の結果から、反強磁性体と金属の接合面において、結晶内部とは異なる原理で電気磁気効果が誘起できることを見出し、他の材料にも電気磁気効果が適用できることを示した。
今回の研究成果は、大阪大学大学院工学研究科の白土優准教授、同大学院生の氏本翔氏(当時は博士前期課程)、鮫島寛生氏(博士前期課程)、名古屋大学大学院工学研究科の森山貴広教授、三重大学大学院工学研究科の中村浩次教授、関西学院大学工学部の鈴木基寛教授、高輝度光科学研究センターの河村直己主幹研究員らによるものである。
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