ここまで見てきたように、Intelは過去に2つのミスジャッジを犯してしまった。Intelの立場に立ってみると、この2つのミスジャッジが無かったら、と思わざるを得ないだろう。筆者にとっても、半導体メーカー(だけでなくあらゆる会社)の経営が、いかに難しいかを痛感させられるエピソードである。
しかし筆者は、現在Intelが苦境に陥っている根本原因は、2つのミスジャッジとは別のところにあると考えている。その根拠を以下に示す。そこで、あらためて図2を見て頂きたい。Intelは、過去に社員をリストラした局面が2回あることが分かる。
1回目は、2000年(Intelの従業員数8.6万人)〜2002年(同7.9万人)で、ここでIntelは約7000人をリストラしている。これは、2000年にITバブルがあり、2001年にそのバブルが崩壊して半導体不況に陥ったことが原因であろう。従って、やむを得ない措置だったと思う(筆者も、この半導体不況によって当時勤務していた日立製作所から早期退職勧告を受け、2002年に自己都合退職する羽目になった)。
2回目は、2005年(10万人)から2009年(8万人)にかけて約2万人をリストラした。これは、2008年にリーマン・ショックが起き、2009年に半導体不況が訪れたこととは無関係である。というのは、リーマン・ショックより3年前の2005年から社員を減らしているからだ。
なぜ、Intelは社員を2万人も減らしたのか?
Intelの事情に詳しい複数の知人によると、当時CEOだったPaul Otellini氏が「効率的な経営」を掲げ、それで社員を2万人減らしたのだという。ところが、この2万人の削減が、その後のIntelに甚大なダメージを与えることになり、それが現在まで尾を引いていると筆者は分析している。以下にその詳細を示す。
Intelは、2年周期で微細化を進める“チック・タック”モデルに基づいて、プロセッサをリリースしてきた(図5)。
チック・タックモデルとは、例えば、2007年に65nmから45nmに微細化した世代を“チック”と呼び、その翌年の2008年に微細性は45nmのままで基本設計を更新した世代を“タック”と呼ぶ。つまり、“チック・タック”と時計のように、毎年、新しいプロセッサをリリースするのが、Intelのプロセッサのビジネスモデルだった。
このチック・タックモデルによる微細化は、2011年の22nmまではうまく機能していた。ところが、2013年に立ち上がるはずの14nmが1年遅れの2014年になってしまった。さらに、2016年に立ち上げようとした10nmは、その後5年以上も立ち上らない異常事態となった。つまり、Intelのチック・タックモデルは崩壊してしまったのである。
なぜ、Intelのチック・タックモデルは崩壊したのだろうか?
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