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Intelはどこで間違えた? 〜2つのミスジャッジと不調の根本原因湯之上隆のナノフォーカス(75)(5/5 ページ)

» 2024年08月29日 11時30分 公開
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既に破綻しつつある「4年で5 Node推進」

 ただし、Intelが4年で進めると発表した5 Nodeについては、多くの注釈が必要である。

 まず、intel 7は、基本的に以前10nmと言っていたものと同じプロセスである。また、Intelが初めて最先端のEUV(極端紫外線)露光装置を適用するintel 4は自社のプロセッサ用であり、intel 3はファウンドリー用である。つまり、プロセスとしては、intel 4はintel 3と同じである。また、intel 4とintel 3は、当初、TSMCの5nm相当と思っていたが、EUVのマスク枚数の点から言えば、7nm+(最近は6nmと呼ぶ)相当に近い。

 そして、20Aは自社のプロセッサ用、18Aはファウンドリー用である。つまり、20Aと18Aは同じプロセスである。この20Aと18Aは、Gate All Around(GAA)を採用する。このネーミングとGAAを使うことから、これらはTSMCの2nm相当かと思っていたら、どうも3nmに近いプロセスのようである。

 結局、Intelが発表した「4年で5 Node」は、実質的に「4年で3 Node」ということになる。その上、intel 4は、2023年12月から量産開始ということになっているが、歩留りが上がらず、流れているウエハーも随分少ないらしい。

 さらに最近、関係筋から聞いた話では、intel 4とintel 3よりも、20Aと18A(の特に18A)を先に立ち上げようとしているという。その理由として、TSMCが2nmを立ち上げるよりも早く、(2nmっぽく見える)18Aを立ち上げて、そのカスタマーを獲得したいというもくろみのようである。

 上記から、Intelの微細化の計画は混乱を極めているように見える。そして、初めてEUVを使うintel 4とintel 3が十分量産できているとは言い難く、それを横に置いておいて、これまた初めてGAAを採用する18Aを先に立ち上げようとしているIntelの微細化計画は既に破綻しているように見える。

Intelの今後の行方

 結局、Intelの微細化の混乱は、2014年から10年以上も続いていることになる。そして、その根本原因が、2005〜2009年に2万人の社員をリストラしたことにあると考えられる。

 今後、Intelは、2022年から2024年にかけて、3万人以上をリストラしようとしている。このような、Intel史上最大規模のリストラを行う中で、EUVを15層以上使って、初めてGAAを採用しようとしている18Aが予定通り立ち上がるのだろうか? また立ち上がったとして、顧客を獲得できるのだろうか?

 さらに、Intelは2023年12月に、TSMCやSamsung Electronicsに先んじて、NA(開口数)が0.55のHigh NAを導入した。Intelは、ことし2024年末までに、High NAを6台導入すると聞いている。だが同社は、NA=0.33のEUVですら、満足に使いこなしているとは言い難い。そのような中で、High NAを6台も立ち上げられるとは到底考えられない。

 何度も言うが、Intelは2万人をリストラしたために、14nm以降の微細化の計画が大きく狂ってしまった。そして今Intelは、それを超える3万人規模のリストラを行いつつある。この大リストラのツケが、Intelの今後にどう影響するだろうか? 筆者は、Intelに明るい未来を描くことができない。読者諸賢は、どう思われますか?


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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。


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