孔なし酸化グラフェンで水素イオンバリア膜を作製:リチウム箔を水滴から守る
熊本大学は、構造内に「孔」がない酸化グラフェン(Pf-GO)を合成し薄膜化することで、「水素イオンバリア膜」を作製することに成功した。従来の膜に比べ最大10万倍の水素イオンバリア特性を備えているため、リチウム箔を水滴から守ることができるという。
熊本大学産業ナノマテリアル研究所の畠山一翔助教と伊田進太郎教授らによる研究グループは2024年9月、構造内に「孔」がない酸化グラフェン(Pf-GO)を合成し薄膜化することで、「水素イオンバリア膜」を作製することに成功した。従来の膜に比べ最大10万倍の水素イオンバリア特性を備えている。これでコーティングすれば、リチウム箔を水滴から守ることができるという。
原子1個分の厚みであらゆる物質を遮断できるグラフェンは、究極のバリア膜材料といわれている。ただ、形状が複雑な物体に成膜をするのは、技術的にもコスト的にも難しいという。そこで注目されているのが酸化グラフェン(GO)である。グラフェン骨格に付いた酸素官能基によって、溶媒に分散させることができる。ところが、イオンを高速に伝導するため、イオンバリア膜として用いるのは難しかった。
そこで今回は、Brodie法によるグラファイトの酸化およびアンモニアを用いて剥がすことによりPf-GOを合成し、水素イオンの透過を検証した。電子顕微鏡を用い高倍率で観察しても、Pf-GOには「孔」が見当たらなかった。
GO(左)とPf-GO(右)の走査型透過顕微鏡像 出所:熊本大学
さらに実験では、Pf-GO膜で隔てた2つのセルを用意し、pH7の食塩水とpH1の塩酸水溶液をそれぞれのセルに入れた。そして、食塩水を入れたセルについて、pHの変化を測定した。この結果pHの減少はなく、Pf-GO膜が水素イオンバリア膜として機能していることを確認した。交流インピーダンス法を用いて水素イオン伝導特性を調べたところ、Pf-GO膜はGO膜に比べ、水素イオン透過速度に最大10万倍もの差があった。
研究グループは、リチウム箔の表面に厚み数百ナノメートルのPf-GO薄膜を作製し、水滴に対するバリア特性を調べた。この結果、Pf-GOをコーティングすると、表面の水滴が乾燥するまでリチウム箔は反応しなかったという。
左上はGOとPf-GO膜の水素イオン透過特性評価に用いた装置の模式図、右上は水素イオン透過特性試験におけるpHの変化、下図はGOとPf-GO薄膜の水滴に対するバリア特性の模様[クリックで拡大] 出所:熊本大学
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