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SiC低価格化の鍵になるか ヘテロエピ成長用「中間膜」技術格子不整合を緩和して単結晶化

東京大学発のスタートアップであるGaianixx(ガイアニクス)は「CEATEC 2024」で、同社が手掛ける「多能性中間膜」の技術を展示した。ヘテロエピタキシャル成長用の技術で、さまざまな金属材料の単結晶膜をシリコン基板上に形成できるようになる。

» 2024年10月24日 09時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

 東京大学発のスタートアップであるGaianixx(ガイアニクス)は「CEATEC 2024」(2024年10月15〜18日、幕張メッセ)で、同社が手掛ける「多能性中間膜」の技術を展示した。

 Gaianixxは2021年11月に設立された企業で、多能性中間膜を活用し、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった化合物半導体の高付加価値化や低価格化を目指している。

 中間膜は、基板と、その上に成長させたい膜(1層目)の間に作成する膜のこと。異種材料をウエハー上に成長させる(ヘテロエピタキシャル成長させる)際、両者の格子定数の違いなどを緩和する役目を果たす。青色ダイオードの発光効率を大幅に向上させた技術としても知られている。Gaianixxは、中間膜にマルテンサイト変態という現象を利用することで、中間膜をさらに進化させた独自の「多能性中間膜」を開発した。

 マルテンサイト変態は、ある特定の材料に特定の条件を与えると、格子の位置関係を保ったままで、材料が伸び縮みする現象。鉄鋼材料の表面処理などに使われている技術でもある。Gaianixxの多能性中間膜は、膜中でマルテンサイト変態を起こすことで、基板と1層目の格子定数を合わせて単結晶を形成する。GaianixxのCEO(最高経営責任者)兼代表取締役社長を務める中尾健人氏は、「上層と下層のひずみを多能性中間膜で感じ取り、そのひずみをなるべく抑えるように、中間膜が伸び縮みするイメージだ」と説明する。

 多能性中間膜の特徴は、1層目の上に成長させた複数の別材料層との応力も吸収し、マルテンサイト変態によって格子定数を再度合わせられる点だ。このようにして、多層でも高品質な単結晶膜を形成できる。

「多能性中間膜」のイメージ[クリックで拡大] 出所:Gaianixx

 「Cu(銅)やMgO(酸化マグネシウム)のような、従来、Si(シリコン)基板上に単結晶膜を形成することが難しかった材料でも、高品質な単結晶膜を形成できるようになる。現在は顧客と、AlN(窒化アルミニウム)の単結晶膜を形成する共同開発を行っている」(中尾氏)。GaNについてもプロジェクトが進んでいるという。

 「通信分野で多用されているAlNは引き合いが強い。われわれとしては、まずはAlNや、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電素子といった用途をターゲットとしている」(中尾氏)

 多能性中間膜を使って単結晶化を実現した金属材料としては、Pt(白金)、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、MgOなどがある。Gaianixxによれば、MgOへの関心も高いという。イリジウム膜やダイヤモンド膜などのエピタキシャル成長にも使われるMgO基板は、製造プロセスが複雑かつ高度なことから価格が高く、大口径化も難しい。多能性中間膜を使うことで大口径化がしやすくなれば、MgO基板のコストを低減できる可能性もある。

CEATECのブースでは、さまざまな金属で単結晶膜を形成したものを展示していたMgOを単結晶化した4インチウエハー 左=CEATECのブースでは、さまざまな金属で単結晶膜を形成したものを展示していた。カッコ内の数字は結晶方位を示している/右=MgOを単結晶化した4インチウエハー。「4インチのMgO基板を展示しているだけで驚かれる」(Gaianixx)という[クリックで拡大]

 今後の成長が見込まれる次世代パワー半導体市場も視野に入れている。特にSiC基板は、品質が安定しない上にコストも高く、供給量も限定的なのが現状だ。多能性中間膜により、品質、コスト、供給量のいずれも安定しているSi基板上にSiCを高品質でエピタキシャル成長できるようになれば、SiCパワーデバイスの低コスト化に大きく貢献できる可能性がある。「これは大きなゲームチェンジャーになる」と中尾氏は語った。

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