磁性と強誘電性を備える物質を160℃の高温で動作:新機能デバイスへの応用に期待
東北大学の研究グループは、磁性と強誘電性を併せ持つ物質「マルチフェロイクス」を、約160℃という高い温度で動作させることに成功した。高温動作を実現したことで、光デバイスやスピントロニクスデバイスなど新機能デバイスへの応用が期待される。
東北大学の研究グループは2024年12月、磁性と強誘電性を併せ持つ物質「マルチフェロイクス」を、約160℃という高い温度で動作させることに成功したと発表した。高温動作を実現したことで、光デバイスやスピントロニクスデバイスなど新機能デバイスへの応用が期待される。
マルチフェロイクスと呼ばれる物質は、電気的に磁性を制御することや、磁気的に電気分極を制御できる「電気磁気効果」が確認されている。また、マジックミラーのような機能(光の一方向性)も観測されているという。ただ、マルチフェロイクスの動作が確認されているのはこれまで、室温以下という低温環境のみで、実用化に向けては高温での動作が課題となっていた。
研究グループは今回、モリブデン酸テルビウム「Tb2(MoO4)3」が、結晶格子の変形によって強誘電性を発現することに着目した。この物質は強誘電体でありながら強弾性体でもあり、ひずみと電気分極が強く結合している。また、Tb(テルビウム)イオンは磁気モーメントを持ち、その方向に依存してひずむ効果があることも分かっていた。
高温マルチフェロイクス物質「Tb2(MoO4)3」[クリックで拡大] 出所:東北大学
Tb2(MoO4)3におけるひずみと電気分極の結合[クリックで拡大] 出所:東北大学
Tb2(MoO4)3を用いて実験を行った。この結果、約160℃という高温環境で磁場によって磁気モーメントを90°回転させたところ、電気分極の反転に成功した。これにより、マルチフェロイクスが高温でも動作することを実証した。
Tb2(MoO4)3におけるひずみを介した電気と磁気の結合を利用した電気磁気効果[クリックで拡大] 出所:東北大学
今回の研究成果は、東北大学大学院理学研究科の田島史門大学院生、同大学金属材料研究所の増田英俊助教、新居陽一准教授、木村尚次郎准教授、小野瀬佳文教授らによるものである。
- 高温エネルギー変換デバイスの早期社会実装を目指す
太陽誘電と東北大学は、高温エネルギー変換デバイス技術を共同で開発するための研究部門を2024年10月に開設した。設置期間は2024年10月1日から2027年9月30日までの3年間である。
- ローカル5GやLTEを高速切り替え 製造現場で安定通信
情報通信研究機構(NICT)とNEC、東北大学およびトヨタ自動車東日本は、公衆網(5G/LTE)とローカル5Gによるハイブリッドなネットワークを活用し、移動体との間で安定した無線通信を可能とする「SRF無線プラットフォームVer.2」の実証実験に成功した。
- 東北大ら、高屈折率で近赤外光を通す新材料を発見
東北大学は日本電気硝子との共同研究により、屈折率が「5」を超えるなど、シリコンに比べ最大で約1.5倍と極めて高く、しかも近赤外光(波長800〜1200nm)を通す透明な新材料を発見した。
- 酸化ガリウムウエハーの低コスト量産に向け、東北大が新会社を起業
東北大学は、β型酸化ガリウム(β-Ga2O3)ウエハーの低コスト量産化を目指す同大発のスタートアップFOXを起業したと発表した。同大と同大発スタートアップのC&Aが共同開発した貴金属フリーの単結晶育成技術を用い、シリコンに匹敵する低欠陥のβ-Ga2O3インゴット/基板を、SiCより安価に製造する技術の実用化を目指す。
- アモルファス CrGT薄膜で巨大な抵抗変化を観測
京都大学と東北大学の研究グループは、ポリイミド基板上に形成したアモルファス Cr2Ge2Te6半導体(CrGT)薄膜が、約6万という極めて大きなゲージ率になることを発見した。これは他の半導体材料に比べ2桁以上も大きい値だという。
- 「CMOS/スピントロニクス融合AI半導体」を開発
東北大学とアイシンは、エッジ機器に適した大容量MRAM搭載の「CMOS/スピントロニクス融合AI半導体」を開発した。システム動作シミュレーションで検証したところ、従来に比べ電力効率は10倍以上、起動時間は10分の1以下となった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.