そしてもう1つの指標として、トップ10各社の時価総額を比較したグラフが下図である。NVIDIAの時価総額は今や3兆米ドルを超え、将来的には3.5兆米ドル、4兆米ドルをうかがおうかという勢いである。日本円に換算すると500兆円を超えており、東証プライム市場の時価総額の約半分に匹敵するレベルに達している。
そして最近、株式市場でも注目度を高めつつあるのがBroadcomである。2025年1月13日時点の時価総額は1兆米ドルを超えており、半導体メーカーとしてはNVIDIAに次ぐ評価を受けている。すでに述べたように、BroadcomはGAFAMを中心としたITベンダーのデータセンター向けにASIC、ASSPベンダーとして他社の追随を許さない実績を上げている。昨今の半導体市場は、PC、スマホあるいは車載向けの需要が伸び悩む中、データセンター向けの需要が活性化していることは周知の事実である。NVIDIAだけでなく、Broadcomにもさぞかし強い追い風が吹いているだろう、と多くの関係者が考えても不思議ではない。実際にBroadcomの四半期売上高は順調に増えている。だが、内訳を見てみると、ソフトウェア事業の増収によるところが大きく、半導体事業の売上高はあまり伸びていない。2024年10月期のBroadcomの半導体売上高は、前年比6.8%増にとどまっている。世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2024年のロジックIC市場は前年比20%近く伸びているので、Broadcomの伸びは市場平均を大きく下回っている。
もちろん、半導体であろうがソフトウェアであろうが、売上高が伸びている点はポジティブに評価できるはずである。Broadcomは2023年にITインフラソフトのVMwareを買収し、これが増収の原動力になっている。しかしVMwareのユーザーからは、Broadcom買収後は実質的な値上げが断行されていることを不服とする声が多く上がっている。筆者から見れば、Broadcomは株式市場が先行して高い評価を付けていて、実績がこれに追随できるかどうかがポイント、というように見えるのである。
半導体業界は、NVIDIAがAIブームを巻き起こす一方で、IntelがAIブームの波に乗れず、けん引役の世代交代が起こっている。そしてデータセンター向けに高い実績を持つBroadcomがAIブームの波に乗れるのではないか。AI機能がPCやスマホ、さらにはクルマなどに搭載されることで、Intel、AMD、Qualcomm、さらにはルネサス エレクトロニクスなど多くの半導体メーカーがAIブームの恩恵を受けるのではないか。こういった期待が寄せられるようにもなっている。
まだまだAIブームは始まったばかりだ。誰がNVIDIAに追随するのか。どういった機器にAI機能が搭載されるのか。われわれの生活や仕事にも大きな影響が及ぶのか。2025年以降の半導体およびハイテク産業は、このような期待感を意識して観察する必要があるだろう。株式市場ではBroadcomに高い期待が集まっているようだが、この読みが当たるのか外れるのか。個人的には強い興味がある。
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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