米シンクタンクが、CHIPS法(CHIPS and Science Act)の効果を評価する報告書を発表した。これまでに助成が確定あるいは覚書を締結したプロジェクトが不可欠だったかどうかを、率直に評価している。
米シンクタンクのピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics)は、CHIPS法(CHIPS and Science Act)を通して米国の産業政策を評価する予備報告書「Industrial Policy Through the CHIPS and Science Act」(以下、ピーターソン報告書)を発表した。これまでに提供された補助金や融資、投資税額控除などが、米国の工場や組み立て/テスト/パッケージング工場への投資を確保する上で不可欠なものだったかどうかを調査している。
この報告書では、製造のオンショアリングとサプライチェーンのレジリエンス強化を復活させるための米国の政策について、日本や台湾、韓国、中国、EUなど他の国/地域の取り組みについても目を向けながら、世界的/歴史的背景を提示している。また、各管轄の補助金や税率に関する比較データを提示し、それに基づいてCHIPS法を評価している。
同報告書は、米商務省が2024年10月17日(現地時間)までに署名した20件の補助金についても考察している。その補助金は合計330億米ドルに上り、無利子融資も計画されている(これまでに提供された全ての補助金に関する最新リストの詳細については、ウェブサイト「CHIPS for America」にインタラクティブマップと併せて掲載されている。また、米国半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)のウェブサイトではリスト形式で確認できる)
さらに「ピーターソン報告書の見解では、全20社のうち10社に関しては、現金による補助金が不可欠だった可能性がある。CHIPS法補助金と、これら10社に対する無利子融資の助成金額は、計314億米ドルに達し、これまでに提供されたCHIPS法補助金および補助金付き融資の総額(385億米ドル)の大部分を占めている。またこれらの企業は、計画している設備投資に対し、25%の投資税額控除から686億米ドルの補助金を受け取る予定だ」と記している。
「つまり、最大71億米ドルの助成金と補助金付き融資が、財務基盤の強い10社の企業に不必要に提供された可能性があるということだ。これらの企業は、主に税額控除が動機となって投資にコミットメントしている可能性がある」と付け加えている。
ピーターソン報告書は、そのメリットと、考え得る代替手法についても検証している。「CHIPS法は、米国内で高性能半導体の生産を増加させる投資を行うことにより、米国の半導体業界の目標を達成する可能性が高い。また補助金によって、国内の半導体供給を増加させ、将来の半導体不足のリスクを低減することで、国家安全保障が強化されるだろう。CHIPS法がなければ、米国拠点の製造業においてこれほどのレベルの投資は行われなかった可能性がある」と述べている。
CHIPS法によって米国内の設備投資に拍車が掛かり、世界設備投資全体に占める米国の割合が急増した。報告書によると、こうした投資を刺激する上で、投資税額控除をはじめとするCHIPS法補助金に対する期待とその実施は不可欠だったという。同法により、建設業において約9万3000人の臨時雇用と4万3000人の正雇用の創出が予測されている。
雇用当たりのコストは高いが、有益な結果を得られたといえる。雇用1件当たりの助成金コストは年間約18万5000米ドルで、これは米国半導体業界の従業員の平均年収の約2倍に相当する。これは、雇用創出に関しては他の雇用プログラムの方がより効率的だった可能性があることを示唆している。
25%の投資税額控除は不可欠だったが、プロジェクトを前進させるための十分条件ではなかったという指摘もある。報告書によれば、全てのケースで現金による助成金が不可欠だったかどうかは不明だという。キャッシュポジションに関する分析では、健全な経営状態にある企業が、投資税額控除だけに基づいてプロジェクトを進めたケースがあるという点が強調されている。特に、成熟/レガシーチップを製造している企業や、強い財務基盤を持つ企業などの特定の企業に対しては、一部の助成金が必要なものだったのかどうかが疑問視されるという。
同報告書は、他の懸念事項についても指摘する。例えば、国内の半導体生産量が増加するにもかかわらず、特に成熟/レガシー技術に関しては、輸入半導体への依存が続く見込みだという。アジア企業が米国内で計画している大規模投資は、特に世界半導体売上高が現在の予測に達しない場合、持続不可能になるかもしれない。これらのアジア企業は、米国への設備投資費を最初に削減する可能性があるのだ。
また報告書では、製造/組み立て/テストへの設備投資を奨励している世界の多くの地域と同様に、生産を重視し過ぎて研究開発分野へのインセンティブがないのではないかという点も疑問視している。高収益の大企業に向けた研究開発補助金に関しては、米国が先進国の中で最下位にあるという点が強調されている。
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