体液からエクソソームを分離・精製する手法には、超遠心分離法、精密ろ過法、抗体による捕捉、マイクロ流体システムの利用、などがある(出所:下田、澤田、秋吉、「細胞外ベシクルの構造特性と機能制御」、『Drug Delivery System』、29-2、2014)。ここで分離したエクソソームは、数多くの粒子の集まりとなっている。
本ロードマップでは、エクソソームを1個ずつ捕捉して解析し、特定のエクソソームだけを解放するシステムの提案に着目した。考案したのは東芝である(特許第6903618号、2021年6月登録)。グラフェンFETのソース電極とドレイン電極に交流電圧を加えることで電界の密度を局所的に変化させ、液体中の細胞外小胞を1個ずつ誘電泳動によって引き寄せ、捕捉する。
捕捉したエクソソームなどの細胞外小胞の表面に存在するタンパク質(表面タンパク質)を解析し、目的の表面タンパク質を有する細胞外小胞だけを解放し、液体に戻す。液体に戻した特定の細胞外小胞群(サブクラスとも呼ぶ)の内部を別の装置によってさらに詳しく解析する。
細胞外小胞を1個ずつ捕捉し、解析する技術はまだ課題が大きい。第1の課題は、細胞外小胞の大きさに相当する微細配線の加工技術である。最も小さなエクソソームだと線幅/間隔が30nm/30nmの微細配線を必要とする。一般的な配線材料である銅(Cu)は採用できない。体液のような水溶液中では電気分解を起こしてしまう。金(Au)や白金(Pt)などの採用が望ましい。
第2の課題は、細胞外小胞は極めて接着性が高く、電極や絶縁膜、半導体チップなどに吸着してしまうことだ。この現象は「非特異吸着」と呼ばれる。非特異吸着を防ぐためには、「ブロッキング膜」あるいは「アンチファウリング膜」と呼ばれる吸着を防ぐ膜によって所望の領域を被覆しなければならない。
第3の課題は、捕捉した細胞外小胞のごく一部しか、解析できないことだ。電解質溶液は電極やFETなどとの界面付近に厚みが0.8nm〜10nm前後の電気二重層を形成する。電気二重層の外側は電気的には中性となる。これを「デバイ遮蔽(Debye shielding)」と呼ぶ。例えばエクソソームの大きさは直径100nm前後であるから、電極に接触した状態では底部を除くと電荷が生じず、実効的には電荷を読み取れない。言い換えると、底部の電荷だけを測定することになる。
(次回に続く)
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