まず、ChatGPTなどの生成AIは、何を破壊したのだろうか?
定量的なデータはないものの、GoogleのWeb検索を破壊しつつある可能性がある(図4)。筆者は記事の執筆や講演等の資料作成を仕事の一環として行っているが、2024年後半以降、GoogleのWeb検索に代わりChatGPTを利用する機会が増え始めている(ただし、これは筆者個人の経験であり、一般化できるわけではないが、以下ではこれが正しいと仮定して論説を述べる)。
ChatGPTなどの生成AIは、GoogleのWeb検索とは異なるポジションにあるため、「新市場型破壊イノベーション」と捉えることができる。さらに、OpenAI、ソフトバンクグループ、アラブ首長国連邦のAI専門政府系投資ファンドMGXによる合弁事業として、今後4年間で5000億米ドルを投じる米国の“Stargate Project”は、ChatGPTの延長線上にある「持続的イノベーション」に分類されるだろう。一方、最近登場したDeepSeekは「ローエンド型破壊イノベーション」に該当すると考えられる。
不正行為の疑惑があるDeepSeekの今後は不透明だが、「蒸留」という手法の活用により、「AIがより優れたAIを生み出す時代」が到来しつつある。その結果、LLMとそれを用いた生成AIを短期間かつ低コストで開発できるこの手法は、世界中のAI開発ベンチャーに新たな可能性をもたらした。そのため、AI半導体の需要は今後も増大すると筆者は考えている。
では、2025年から2030年にかけて、世界のウエハー需要はどのくらい増大するだろうか? その前に、前回の拙著記事(『2029年に「シンギュラリティ」が到来か 〜半導体は「新ムーアの法則」の時代へ』)を引いて、2025年から2030年にかけて世界半導体市場がどれだけ成長するかを復習する。
図5は、2024年11月14日に開催された“ASML Investor Day”で、Amit Harchandani氏が“End markets, wafer demand and lithography spending”のタイトルで発表したスライドである。この図には、2025年から2030年にかけて、スマホ、PC、コンシューマー、有線&無線インフラ、サーバやデータセンター&ストレージ、クルマ、産業などの各種電機器用の半導体がどれだけ成長するか、また世界半導体市場がどこまで成長するかが示されている(図6〜12も出所は同じ)。
結論として、最も高い成長率を示しているのは、年率18%で拡大するサーバやデータセンターおよびストレージ向け半導体であり、これが市場の成長をけん引し、世界の半導体市場全体も年率9%で成長すると予測されている。
ここで、「CMD 2022」は2022年時点のデータを基に2025〜2030年の半導体市場を予測したものであり、「CMD 2024」は2024年時点のデータを基に作成された予測である。「CMD 2024」には、2022年11月30日に公開されたChatGPTなどの生成AIの影響が反映されており、さらに、2023〜2024年の半導体不況も考慮されている。
従って、「CMD 2024」はより精度の高い予測といえる。ただし、2025年1月20日に公開された DeepSeek「R1」の影響は反映されていないため、その点は注意しなくてはならない。
次に、最も高い成長率が予測されているサーバには、AI半導体を搭載したAIサーバがどのくらい含まれるようになるのだろうか?
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