しかし日本では5.9GHz帯が既に、放送事業用無線システムに割り当て済みだ。このほかにも放送事業用無線システムに割り当てられた帯域はいくつか存在しており、テレビ放送事業者とラジオ放送事業者が番組データの送受信に活用している。
それらの中でも5.9GHz帯(B帯あるいはBバンドと呼ばれる)は、テレビ放送事業者に割り当てられた帯域である。無線通信の用途は3つの固定無線と1つの移動無線に分かれる。
固定無線には、放送局のスタジオ(演奏所やドラマ撮影所など)から送信所・中継所へ番組データを伝送する回線(STL:Studio to Transmitter Link)、送信所と中継所を結んで番組データを伝送する回線(TTL:Transmitter to Transmitter Link)、中継所から放送局のスタジオ(以降は放送スタジオと表記)へ番組データを伝送する回線(TSL:Transmitter to Studio Link)がある。固定無線は常に運用されており、無線送受信が止まることはない。
移動無線には、放送番組素材(高品質のデジタル動画データ)を送信する機能を備えた移動体(FPU:Field Pickup Unit)がまず存在する。FPUには、番組制作カメラや報道中継カメラ、中継車両、報道ヘリコプターなどがある。そしてFPU回線と呼ぶ無線回線によって中継所や放送スタジオなどに番組素材を伝送する。移動無線は必要に応じて運用するものの、常に送受信が可能な状態にしておく必要がある。
テレビ放送事業者に割り当てられた5.9GHz帯(Bバンド)は5850MHz〜5925MHzであり、ITU-RがITS用に勧告した周波数帯域と完全に重なっている。まず、5.9GHz帯を放送事業用無線システムとITS用無線システム(V2X通信システム)で共用することを検討したものの、共用は難しい(干渉などの問題が生じる恐れがある)との結論が既に出ている。
次に、放送事業用帯域の一部をほかの周波数帯域に移行し、空いた帯域をV2X通信に割り当てることを机上検討した。その結果、5.9GHz帯の上半分に相当する5895MHz〜5925MHzの最大30MHz幅をV2X通信に割り当てることを目標とするとともに、5888MHz〜5925MHzを利用している放送事業用無線帯域を移行させる周波数帯域の確保と、移行する手順、隣接周波数を利用するシステムとの共用などを検討することとした。
なお、V2X通信への5.9GHz帯割り当て時期は令和8年度(2026年度)を目標としている。また5.9GHz帯の実証実験が早期に可能になる環境整備を実施中である。
(次回に続く)
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