キヤノンが ダイナミックレンジ156dBと、従来比5倍に高めた2/3型 約210万画素のSPADセンサーを開発した。1画素当たりの消費電力75%減、LEDフリッカー現象の低減も実現。車載をはじめ、監視、産業用途など多岐にわたる応用を想定している。
キヤノンは2025年6月12日、156dBの高ダイナミックレンジを実現した2/3型 約210万画素のSPADセンサーを開発したと発表した。独自技術でダイナミックレンジを従来比5倍に向上すると同時に、1画素当たりの消費電力を75%減したほか、LEDのフリッカー現象の低減も実現した。車載をはじめ、監視、産業用途など多岐にわたる応用を想定する。
京都で開催された半導体の回路技術に関する国際会議「2025 Symposium on VLSI Technology and Circuits」(2025年6月8日〜12日)で発表した。
SPADセンサーは、画素に入射した光の粒子(フォトン)を1つ1つ数えるフォトンカウンティングと呼ばれる原理を採用したセンサーだ。光を読み出す際にノイズが入らないため、暗い所でもわずかな光を検出し、ノイズの影響を受けずに被写体を鮮明に撮影したり、対象物との距離を高速/高精度に測定したりできる。ただ、従来高照度下では、入射したフォトンが一定数を超えると処理のスピードが間に合わずにそれぞれを分離して検出できなくなり、画像が白飛びしたり、フォトンを1つずつ全てカウントすることで消費電力が大きくなるという課題があったという。
キヤノンが開発したこのセンサーは、独自の「重み付けフォトンカウンティング」という技術を採用し、この課題に対応している。同技術は照度によってフォトンがセンサーに届く頻度に差があることに着目。従来は1つ1つフォトンをカウントしていたのに対し、所定期間内で1つ目のフォトンが届く時間から複数の到達するフォトンを推計する方式にしたことで、検出できるフォトン数が格段に増加した。これによってダイナミックレンジは、同社が2022年に半導体業界の国際学会「ISSCC」で発表したSPADセンサーと比較して約5倍となる156dBに向上した。同時に1画素当たりの消費電力は、約75%減の低消費電力化や、信号機などのLEDのフリッカー現象の低減も実現したとしている。
キヤノンは同センサーを車載や監視、産業用途など幅広い用途で応用することを想定していて、今後さらなる技術開発を進め、量産開始を目指す方針だ。特に車載分野においては「これまで、一般的に普及しているCMOSセンサーをそのまま車載向けに用いた場合には、低照度やトンネル出口などの明暗差の大きい環境下での視認性に課題があることが知られている。低照度下での撮影を得意とするSPADセンサーに独自の技術を組み合わせた本センサーによって、これらの課題の解決に貢献する」と強調している。
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