東京理科大学の研究グループは、東京大学や住友電気工業と共同で、汎用性の高いスパッタ法を用い、高品質の窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)薄膜を作製することに成功した。
東京理科大学先進工学部マテリアル創成工学科の小林篤教授と太田隼輔氏(2024年度学士卒業)らによる研究グループは2025年8月、東京大学や住友電気工業と共同で、汎用性の高いスパッタ法を用い、高品質の窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)薄膜を作製することに成功したと発表した。
ScAlNは、大きな圧電係数や自発分極および、強誘電性を示す。このためGaNをベースとした高電子移動度トランジスタ(HEMT)のバリア材料や、強誘電体ゲートを用いたFeFETなどへの応用が注目されている。
GaN上にScAlN薄膜を作製する方法としてこれまで、分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属気相成長(MOCVD)法が用いられてきた。これらの成膜方法だと高い結晶性や優れた2次元電子ガス(2DEG)が得られる半面、電子移動度が低かったり、製造プロセスが複雑であったりするため、産業用途で広く活用するには課題もあった。
これに対しスパッタ法は、低温かつ簡単な装置で成膜が可能となる。ところが、GaN上でのエピタキシャル成長に対する有効性は、これまで十分に検証されていなかったという。そこで今回、スパッタ法を用い、AlGaN/AlN/GaN/SiC基板上にScAlN膜を成長させた。この時、成長温度を250〜750℃の範囲で変化させ、設定した温度が膜質と電気特性に与える影響を調べた。
実験では、MOCVD法で作製したAl0.2Ga0.8N(約3nm)/AlN(約1nm)/アンドープGaN/6H-SiC構造の基板を用いた。この基板上にスパッタ法を用いて、Sc含有率10%のScAlN膜をエピタキシャル成長させた。成長温度としては250/350/450/600/675/750℃に設定した。ScAlNの膜厚は全て22±2nmである。
作製した複数のScAlN薄膜について、構造解析や電気特性を評価した。この結果、反射高速電子線回析(RHEED)により、250℃という低い成膜温度でもScAlN薄膜のエピタキシャル成長が可能であることが分かった。675℃以上では、表面原子配列の改善を示すストリークパターンを確認できた。
原子間力顕微鏡による表面分析では、成長温度が上昇すると表面の平滑化が進み、750℃ではステップフロー成長への移行を確認した。さらにX線回析(XRD)による構造解析では、750℃で成長させた薄膜において、膜厚の均一性と界面の急峻性を実証した。そしてMBE法やMOCVD法で作製した薄膜と同等の品質であることが分かった。
基板上には全温度範囲でScAlN薄膜が格子整合成長し、格子緩和がほとんどないことを、逆格子空間マッピング(RSM)により確認した。これらの結果から、スパッタ法が高品質のScAlN薄膜成長に有効であることを示した。
ホール効果を測定し、ScAlN/AlGaN/AlN/GaN/SiC構造の電気特性を評価した。750℃で成長させた薄膜は、2次元電子ガス密度が1.1×1013cm-2となり、ScAlNを堆積する前に比べ約3倍となった。250〜675℃で作製した薄膜は、堆積前と同等かそれ以下の値であった。これは、高温成長でステップフロー成長が促進されて、原子レベルで平たんかつ急峻な界面を形成し、ScAlNの大きな分極電荷による電子蓄積が効率的に起きたためと分析している。
一方、電子移動度は全ての薄膜でScAlN堆積前より低下した。750℃で作製した薄膜の電子移動度は913cm2V-1s-1となった。低下の要因は主に、界面粗さや構造の不完全性による散乱のためだと分析している。750℃で作製した薄膜は、表面分析や構造解析によって、高い界面平たん性と結晶均質性を確認しており、構造品質が2DEG密度制御に直接影響していることを示すものだという。
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