京都大学の研究グループは、3GGPで規格化されている5G(第5世代移動通信)物理伝送信号フォーマットに準拠しつつ、最大チャネル帯域幅が2倍以上の信号をサブテラヘルツ波帯に乗せて伝送できる試験装置を開発した。
京都大学大学院情報学研究科の原田博司教授と香田優介助教らによる研究グループは2025年8月、3GGPで規格化されている5G(第5世代移動通信)物理伝送信号フォーマットに準拠しつつ、最大チャネル帯域幅が2倍以上の信号をサブテラヘルツ波帯に乗せて伝送できる試験装置を開発したと発表した。この装置を用いて、車両向け広帯域移動通信システムの基礎伝送に成功した。
5Gシステムは、「高速・大容量」で「低遅延」「多接続」といった特長があり、携帯電話だけでなく社会基盤を支える重要な通信インフラとして期待されている。5Gシステムでは、サブ6GHz帯や28GHz帯という周波数帯域が割り当てられている。さらに今後は、新たな周波数資源である100G〜300GHzというサブテラヘルツ波帯の活用が注目されている。
ところがサブテラヘルツ波は直進性が高く、見通しの悪い場所では受信信号が減衰し、通信品質が著しく低下するという課題があった。こうした中、サブテラヘルツ波帯を活用できる用途の1つとして、見通しの良い道路環境などに設置して、より安全な交通社会を実現できる超高速無線通信インフラへの応用が注目されている。
研究グループは今回、ソフトウェア無線技術を利用して広帯域移動伝送試験装置を開発した。この装置を用いれば、5Gで用いられる直交周波数多元接続方式(OFDMA)に準拠した物理伝送信号をサブテラヘルツ波帯(105GHz)で送信できるという。また、OFDMAを構成する最小単位の周波数帯域幅を現行の120kHzから960kHzにすることで、最大帯域幅も400MHzから920MHzへと2倍以上に広帯域化でき、1.7Gビット/秒の伝送レートを実現した。
研究グループは、開発した装置を用い、交差点を含む屋外道路環境で伝送試験を行った。まず、交差点および道路を見渡せる建物内で、高さが約6mの位置に送信機を設置し、送信ビームを交差点中心に向けて照射した。その上で、移動台車に乗せた受信機を交差点中心から約100mの範囲で移動させ、伝送特性を取得した。受信アンテナの高さは1.6mとした。
次に、送信機の設置場所は変えず送信ビームを交差点中央から約100m離れた場所に照射した。その上で、受信機を交差点の中心から約200mの範囲で移動させ、伝送特性を取得した。
これらの伝送実験では、利得が25dBiの標準ホーンアンテナを送受信アンテナに用いた。受信アンテナは常に水平を保ちつつ交差点方向に向けた。送信ビームも常に一定の方向に照射した。
これらの実験結果より、交差点中心に送信ビームを照射した場合、照射点を含め道路上約50mの範囲まで、ブロック誤り率(BLER)は0.01を下回った。つまり、この範囲だと通信できることが分かった。一方、交差点から100m地点に送信ビームを照射した場合、交差点中央付近を除き、交差点中央から約200mの範囲で伝送できることを確認した。
今回の検証結果により、送信ビームの照射を「交差点中心」と「遠方」の2パターンで使い分ければ、送信ビームを移動体へ正確に照射しなくても、道路上の広い範囲がカバーできることを実証できたという。
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