エッジAIソリューション「AITRIOS」に注力するソニーセミコンダクタソリューションズ。スマートシティー分野において米国で実績を上げ、本格的な採用拡大に向けた取り組みを進めている。担当者に詳細を聞いた。
ソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)は、AI処理機能搭載センサーを活用したエッジAIソリューション「AITRIOS」を将来の柱の1つにすべく展開を加速している。同社は、このAITRIOSで新たにスマートシティー分野において米国で実績を上げ、本格的な採用拡大に向けた取り組みを進めている。今回、同社米国法人Sony Semiconductor Solutions AmericaのシニアビジネスSenior Business Development Managerである喜多村悠氏に詳細を聞いた。
AITRIOSは、SSS独自のAI処理機能搭載イメージセンサー「IMX500」をベースに、AIカメラによるセンシングソリューションの効率的な開発と導入を可能にする「エッジAIセンシングプラットフォーム」だ。SSSでは従来、モバイル向けのイメージセンサーをはじめとしたデバイスの売り切り型ビジネスを中心に展開してきたが、AITRIOSではIMX500の提供と合わせ、エッジAIを実現するソフトウェアのライセンス提供など継続課金を軸とするシステムソリューションビジネスを展開。将来の柱の1つとして育てる方針を掲げている。
AITRIOSは2022年に提供を開始し、これまでリテールや物流、工場市場を中心に展開してきたが、これらは主に屋内利用だった。一方、交通管理などのスマートシティー領域では、交差点付近など屋外での設置が求められることになる。ただ、屋外での設置は、耐環境性能や設置場所および電源の確保など、さまざまな制限があった。SSSはこの用途に向けて今回、パートナーである米国スタートアップのAglaiaSenseと協力し、IMX500を搭載した屋外対応のオールインワンエッジAIカメラを開発したという。
SSSによると、スマートシティー分野の従来型システムは、カメラとは別に画像処理やAI処理を行う高パフォーマンスPC/GPUを用いるものが主流だという。ただ、これらは複数の機器が必要となり、システムが複雑でコストが高い。また交通量調査や都市監視のために交差点などにカメラを設置する場合、処理用のPC/GPUのために屋外環境に対応するキャビネットを設置することが求められる。さらにGPUを用いると、その高い消費電力に対応するための電源設備を確保する必要もある。こうした制限はスケーラブルな展開を阻害する要因になっていた。
SSSとAglaiaSenseが開発したエッジAIカメラは、AI処理に特化した独自のDSPやAIモデルを書き込むためのメモリなどを集積したIMX500の搭載によって、カメラ1台を設置するだけでAI解析が可能なソリューションを実現できる。具体的には、カメラが画像の取得と同時にリアルタイムでメタデータを生成し、クラウドに伝送する。もちろん、カメラは屋外使用に対応する防水/防滴仕様だ。
また、今回のエッジAIカメラは最大2つのカメラユニットを搭載できるが、その場合も消費電力は最大6.5Wとなっていて、ソーラーパネルでも運用が可能だ。電源設備の確保も不要な高い設置性を実現しているという。
さらに、カメラ側で画像を処理し、生成したメタデータのみを伝送する形がとれるので、帯域が限られたネットワークでも導入できる。今回のカメラは、有線ではPoE(Power over Ethernet)やシリアル通信に対応。無線はWi-FiおよびLTEに対応していて、別途ルーターなど不要で直接通信ができる。例えば、米国においては街灯のスマート化が進んでいて、街灯がメッシュネットワーク化されリモート制御されているが、その電力/ネットワークインフラに接続することでデータ伝送および電力確保も可能だという。
このほか公共利用の用途ではプライバシー保護も重要となるが、今回のカメラでは、センサー側でAI処理してリアルタイムで全てメタデータ化してデータ伝送ができるため、個人を特定するようなデータの生成や保存をしないで済む。
こうした特徴から、SSSが提案するこの新たなエッジAIスマートシティーシステムは「既存システムに対し、コスト面でもかなり優位な形でシステムを構成できる」としている。
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