Cadenceは、このようなメカニカルソルバーが、統一されたエンドツーエンドのマルチフィジックスプラットフォームを提供する上での後押しになると期待している。Gemini Digital ConsultingのEli Grant氏は「これは、マルチフィジックスシミュレーション業界における極めて重要な転換点となるだろう。マルチフィジックスシミュレーション市場は、技術的優位性の確立を巡る戦場となっている」と述べている。
同氏は「こうした動きは、シミュレーションツールは静的解析からAI強化型の動的なワークフローへ進化しなければならないという、幅広い業界におけるAI駆動型設計への移行に合致している」と述べる。また同氏は、MSC Nastranを一例として取り上げ、Cadenceのポートフォリオに組み込まれれば、変化する状況下で材料性能を最適化する、AIモデルの開発を加速できる可能性があるとしている。
また、Grant氏は、SynopsysとAnsysの合併が、高性能EDAツールの統合に向けた幅広い動向を示しているとも指摘する。
マルチドメインのエンジニアリングシミュレーションソリューションは、Cadenceの最大のライバルであるSynopsysがAnsysを買収した後に注目を集めるようになった。Cadenceは、数年前にマルチフィジックス分野に参入し、現在はそのマルチフィジックスシステム解析ポートフォリオを拡充して構造解析分野に進出すべく、積極的に取り組んでいる。
Cadenceは既に、同社の計算ソフトウェアの専門知識とBeta CAEの技術を組み合わせることで、構造解析分野に参入している。HexagonのD&E事業を買収したことで、マルチフィジックス解析やシステムダイナミクス、金属形成、自動運転シミュレーションといった分野の補完的なソリューションの開発を目指していく。
HexagonのD&E部門は、2024年に約2億8000万米ドルの売上高を上げ、世界各国の複数拠点に1100名超の従業員を擁する。同社の航空宇宙/自動車分野の顧客には、BAEや、BMW、Boeing、Lockheed Martin、トヨタ自動車、Volkswagenなどが含まれる。また同様に、Beta CAEの顧客には、GMやホンダ、Lockheed Martinなどがある。
CadenceによるHexagonのD&E事業の買収は、Beta CAE Systemsの買収に続くもう1つの戦略的動きであり、マルチフィジックスやシステム設計、AI駆動型シミュレーションなどをターゲットに定めている。市場調査会社IndustryARCの予測によると、シミュレーションソフトウェア市場全体は、AI導入や予測モデリングの需要による後押しを受け、2030年まで平均成長率(CAGR)17.53%で成長する見込みだという。
いまやマルチフィジックスシミュレーションとAIは切り離せなくなっている。CadenceによるHexagonのD&E事業の買収は、実世界の動きや相互作用の正確なシミュレーションを行う上で、タイムリーな戦略だといえるだろう。
しかし、今回の買収取引は2026年第1四半期に完了予定とされているが、規制上の障害に直面する可能性がある。特にSynopsysは、光学ソフトウェアツールなどの分野で独占禁止法に抵触する懸念に対応しなければならなかったことがある。
MSC Softwareは、2017年にHexagonの一部門となった時に欧州に拠点を移していたが、今回の取引完了後に、再び米国カリフォルニア州に戻ることになる。最大手EDAメーカーであるCadenceの本社は、カリフォルニア州サンノゼにある。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.