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赤信号灯るIntel、5年後はどうなっているのか湯之上隆のナノフォーカス(84)(4/4 ページ)

» 2025年10月07日 11時30分 公開
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「(Foundryビジネスについて)白紙の小切手はない」

 2021年2月にCEOに就任したPat Gelsinger氏は、「4年で5ノードを推進する」という野心的な戦略を掲げたが、結果的にこれは失敗に終わった。

 その後、Intelは、CPU用の「Intel 4」およびFoundry用の「Intel 3」よりも、CPU用の「20A」とFoundry用の「18A」を優先する方針へと転換した。さらに、「20A」を事実上スキップし、「18A」に経営資源を集中させる戦略を打ち出した。これは、TSMCの2nmに先行して、より先端に見える「18A」を立ち上げ、TSMCの顧客を奪うことを狙ったものであった。

 しかし、ふたを開けてみると、多くのファブレス企業はTSMCの2nmに殺到し、Intelの「18A」とSamsungの2nmは顧客を獲得できなかった(図8)。もっとも、Samsungは米EVメーカーTeslaとの165億米ドル規模の大型契約を獲得し、Foundry事業としては辛うじて延命した。

図8:2nm世代におけるFoundry各社の顧客の有無の様子 図8:2nm世代におけるFoundry各社の顧客の有無の様子[クリックで拡大]

 一方、「18A」に顧客がつかなかったIntelは、2026年から試作を開始する「14A」に社運を賭けることとなった。この「14A」にはHigh NA(開口数)の次世代極端紫外線(EUV)露光装置を投入する計画だが、High NAのEUV装置の立ち上げは容易ではなく、「14A」の技術的難度は極めて高い。

 さらに、「14A」に顧客がつくかどうかも不透明であり、もし獲得できなければ撤退すると、Tan CEOは明言している。つまり、顧客がつかない限り、経営資金を無制限に投じる「白紙の小切手は切らない」という姿勢を示したのである。

Foundryの勝敗は売上高(シェア)で決まる

 その背景には、Foundryビジネスの勝敗は売上高(シェア)で決まるという動かしがたい現実がある。TrendForceの予測によれば、2025年のFoundry売上高シェアはTSMCが68%と圧倒的な首位を占める一方、Samsungは8%に低下し、Intelはわずか0.3%にとどまる見通しである。

 ここで、SamsungはTeslaとの大型契約を締結したことにより、今後シェアが上昇する可能性がある。しかし、Intelは「18A」で顧客を獲得できず、さらに次世代の「14A」にも顧客がつかなければ、Intel Foundryは事実上“終焉”を迎えることになる。

 なお、2025年4月にパイロットラインを稼働させたRapidusの売上高シェアは、現在は厳密に「ゼロ%」である。Rapidusは2027年までに2nmを量産すると発表しているが、顧客を確保できなければ、Intelと同様に路頭に迷うことになる(図9

図9:主なFoundryの売上高シェア 図9:主なFoundryの売上高シェア[クリックで拡大] 出所:TrendForceのデータを基に筆者作成

「Intelの立て直しとリストラは、“マラソン”になる」

 ここまでをまとめると、IntelはAI半導体ではNVIDIAに大差をつけられ、もはや挽回は困難な状況になった。さらに、x86 CPUビジネスにおいてもAMDに激しく追い上げられ、現在優位性を保っているのはノートPC向けCPUのみとなってしまった。

 加えて、Foundryでは経営資源を集中した「18A」で顧客を獲得できず、High NAを使う次世代の「14A」に社運を託さざるを得ない状況となった。しかし、「14A」にも顧客がつかなければ、Foundryビジネスからの撤退を余儀なくされる可能性が高い。

 このような不調の結果、Intelの売上高は急速に減少し、2024年には187.5億米ドルの巨額赤字を計上した。そのため、同社は2022年に約13万2000人いた従業員を、2025年に7万5000人まで削減する計画である。それとともに、Intelを立て直さなければならないが、それは“マラソン”のように長期戦になるだろう。また、5万7000人をリストラする過程で、有能な人材が率先して流出し、企業競争力の低下を招く懸念が強い。

 このままでは、数年以内にIntelは世界の微細化競争から脱落し、最終的には、ファブレス化、身売り、あるいは国営化による延命を迫られる可能性がある。仮にファブレス化したとしても、TSMCに全面的な生産委託できる保証はなく、仮に委託できたとしても競争力を維持できるとは限らない。

 一度傾いた巨大企業の立て直しは容易ではなく、負のスパイラルに陥れば没落は加速度的に進行する。最悪のシナリオでは、5年後には「Intel」という名の半導体メーカーが消滅している可能性すら否定できない。つまり、「さらば、Intel」ということが現実に起こり得るのだ。Intelの今後に注目せざるを得ない。

連載「湯之上隆のナノフォーカス」バックナンバー

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。


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