今回の買収は、現在まだ交渉中の段階だと報じられているが、もう1つ注目すべき点は、IntelのCEOであるLip-Bu Tan氏が、SambaNovaと以前からつながりがあったということだ。一部の業界観測筋からは、利益の相反になるのではないかとする声もある。Tan氏がエグゼクティブチェアマンを務めているベンチャーキャピタル会社Walden Internationalは、SambaNovaの創業投資家の1社であり、2018年の5600万米ドルのシリーズA資金調達ラウンドを主導したという。
SambaNovaとIntelのつながりはそれだけでは終わらない。Intel Capitalも、SambaNovaの投資家だ。さらに、Intelに出資しているソフトバンクグループは2021年に、SoftBank Vision Fundを通して、SambaNovaに6億7600万米ドルの資金を提供している。この他にもSambaNovaの投資企業には、BlackRockや、SK Telecom、Micron Intelligence Accelerated 、Samsung Catalyst Fundなどが名を連ねる。
今回の買収取引は、Intelが戦略を急に方向転換したことを示している。同社のCFO(最高財務責任者)であるDavid Zinsner氏は2025年4月に「近いうちに企業買収は行わない」とする方針を発表していたが、それがTan氏のCEO就任直後に疑問視されたのだ。
Tan氏は、IntelのCEOに就任してすぐ「われわれの目標は、システム/プラットフォームに関する視点を統合し、精度と電力効率を向上させるフルスタックのAIソリューションを開発することだ。そして、推論モデルやエージェンティックAI、フィジカルAIによって定義されたコンピューティングの次なる波の実現を目指す」と述べていた。
これは明らかに、Tan氏がIntelのトップに就任した直後から、AI分野における次の方策に目を向けていたことを示している。そしてSambaNovaは、IntelのCEOであるTan氏と、同社の投資部門であるIntel Capitalのいずれもがよく知っているAI企業だ。こうしたことは、Intelの次のAI戦略についても大いに物語っているといえる。
SambaNovaはこれまでに11億4000万米ドルの資金を調達していて、PitchBookによると、2021年の時点での企業価値は51億米ドルに達していたという。しかし、Bloombergのレポートによると、どのような買収が行われたとしても、SambaNovaの企業価値は、2021年の資金調達ラウンドの時に達成した50億米ドル規模を下回る見込みのようだ。
さらに、協議は初期段階にあり、両社が合意に達するかは確実でないという。IntelとSambaNovaはこのニュースについてコメントを控えている。とはいえ、もしこの取引が成功すれば、IntelのAIハードウェアのロードマップを垣間見ることができるだろう。
もう1つ注目すべき重要な点は、Intelがこの買収をどのように実行し、製品ロードマップに価値を生み出すかだ。これまでのIntelの買収の実績はあまり印象的ではない。Tan氏の指揮下で状況は変わるだろうか。業界観測筋は、Tan氏が有するディールメイキングやベンチャーキャピタル、スタートアップに関する専門知識は、Intelが買収の面でも新たなスタートを切るのに役立つと見ている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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