これに対して、相川氏の研究グループが開発したのは、「酸素と結合しやすい元素を材料に添加し、弱酸素結合に由来する欠陥を低減する」「低エネルギーのUVを照射し、欠陥を除去する」という手法だ。
同グループは当初、添加剤としてシリコン(Si)を検討し、欠陥が低減できるという結論を得た。しかし、Siの添加量とキャリア移動度はトレードオフの関係にあったため、再度検討してホウ素(B)を用いることにしたという。BはSiよりもイオン半径が小さく、薄膜が強くアモルファス化するので高いキャリア移動度を確保でき、かつ機械的な柔軟性も向上する。
さらに、成膜後の欠陥除去は、従来のような熱処理ではなく低エネルギーのUV照射で行う。この手法では、UV照射による基板の温度上昇は最大で26℃ほどと、室温と同等だ。加熱処理を行わず、意図せぬ基板加熱も生じないので、使用できる基板の選択肢が大きく広がる。大気雰囲気下で処理が行えるのでオゾンなどの専用のガス供給装置も不要で、簡便な手法であるといえる。
相川氏によると、この手法で実験を開始した当初はTFT特性が安定しなかったが、UV照射後にTFTを静置する時間を設けて保護層を形成すると、特性が向上することが分かったという。相川氏は「諦めかけていたが、『ひとまず待ってみよう』と静置していたところ、特性が向上していることを確認した」と説明する。
実用化に向けてはUV処理や静置工程の条件の最適化やスケールアップ検証、長期安定性評価といった課題があるものの、折り畳みスマートフォンやウェアラブルデバイスといったフレキシブルデバイスに加え、ペロブスカイト太陽電池の透明電極などへの活用も考えられる。
相川氏は同手法の説明会で「フレキシブルデバイスの市場拡大を支援できる技術だ。室温で、人体に有害ガスも用いないプロセスなので、サステナビリティの向上やカーボンニュートラルにも貢献できる。高信頼性のTFTが実現すれば、次世代ディスプレイや半導体回路にも展開できる」と強調し、「共同開発を行ってくれる企業を探している」と呼びかけた。特に、酸化物材料の供給/改良を担う材料メーカー、紫外線照射/静置/保護層形成を統合した低温プロセス装置の開発を担う装置メーカー、フレキシブルディスプレイ/センサー分野での実装を担うデバイスメーカーとの共同開発を希望するという。
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