「AI産業革命」の中で、組織の将来はAI導入に成功するかどうかで大きく左右される。Gartnerの調査によると、欧州/中東/アフリカ(EMEA)において、AI導入プロジェクトによって投資額以上のリターンを得られる組織は3割未満とわずかなのが実態だ。導入後に長期的に発生するコストも課題となっている。
私たちは今、歴史的に重大な岐路に立っている。最高情報責任者(CIO)やAIリーダーの選択によって、組織がかつてないほど成功するか、それとも道を見失ってしまうのかが決まるのだ。これは、米調査会社のGartnerがスペイン バルセロナで開催したイベント「Gartner IT Symposium/Xpo 2025」において、重要な論点となった。
AIが衝撃的な変革をもたらす可能性を秘めていることは疑う余地もない。しかし、現実としてその価値を持続的に確保することは、依然として難しい。Gartnerは調査の中で「AI導入プロジェクトによって投資額以上のリターンを得られる組織の割合は、わずか5分の1だ。真の組織的変革を達成できる割合はさらに低く、60分の1だ」という驚くべき事態を明らかにした。
このような、野心と現実との間にある大きな隔たりの理由は、技術的な準備体制と人間の能力との間にギャップがあることだ。
欧州委員会(EC)前上級副委員長のMargrethe Vestager氏は、Gartnerのイベントに登壇し「私たちは今、産業革命の最中にいる。いろいろと考えさせられるのではないだろうか。最初の産業革命が起こったのは100年以上も前のことだが、今もまだその後始末をしているだけなのだ」と述べている。
同氏は「現在の技術的移行は、最初の産業革命よりもはるかにスピードが速い」と強調した。このような速さの中を進んでいくには、コストや能力、地政学的依存度などに関連した巨大なシステム的障壁に立ち向かっていかなければならない。
成功への主要な障壁の1つとなっているのが、経済的な不透明性である。GartnerのアナリストであるGabriela Vogel氏は「AIシステムの導入は、レガシーな統合基幹業務システム(ERP)のような、予測可能な1回限りの投資ではない。導入後も長期にわたり返済し続けなければならないローンのようなものだといえる」と主張する。
組織はAI導入の初期費用については明確に把握しているが、そのような理解はすぐに消え去る。最高財務責任者(CFO)たちからは「初期導入の後、AIプロジェクトへの投入額の状況が分からなくなっている。初日のコストは把握しているが、100日目のコストは全く分からない」という報告が上がっている。
予測不可能な付随的コストの他、AIの継続的なトレーニングやコンテキストスイッチングに関する要件が変化することなどから、コストは急増する。CIOは、導入した全てのAIツールごとに、当初の予算にはなかった追加コストが10種類発生することを予測しなければならない。
このような隠れた移行コストの中には、新しいデータセットを取得してAIを適切に配置することや、自律エージェントへのアクセスを管理することなども含まれる。ここで重要なのが、必要な人的リソースも飛躍的に増大するという点だ。変更管理だけでも、100日間の実装につき100〜200日の人的リソースを要し、作業量は合計で最大200%超にも達する可能性がある。
こうした広範な財務的混乱は、特に欧州/中東/アフリカ(EMEA)において、収益に直接的な影響を及ぼしている。Gartnerのアナリストを務めるRob O'Donohue氏は「EMEAでは、73%の組織はAI導入プロジェクトにおける収支がギリギリか赤字である」と悲惨な統計を指摘している。リーダーは、自身が率いるビジネスケースのROI(Return On Investment)が予期せぬマイナスに陥らないように、厳格な分析を行って、どの移行コストに資金を投じるべきかを決定しなければならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
記事ランキング