AIに期待される最も価値ある成果の1つは、サプライチェーンや複雑な対外交渉の最適化だ。しかし、AIエージェントが技術的に未熟な現時点で、こうした野心的な目標を達成することは難しい。EMEAのCIOの15%がAIエージェントを導入していて、さらに45%が近々導入する計画であるなど、導入率は高いが、主流なのは圧倒的に会話型エージェントだ。
Vogel氏は「会話型エージェントは推論能力と自律的な意思決定能力を欠いているので、価値の高いビジネス成果を得るには不十分だ」と警告している。同氏は「組織は意思決定にエージェントを必要としているが、会話型エージェントにはまだその準備ができていない。意思決定と推論は、自律的なマルチエージェントシステムに不可欠だ」と明言した。
小売業者や大規模物流事業者が求めているのは、単純な会話ではなく複雑な交渉のような高度なタスクである。エージェントは、常に顧客の購買を追跡し、在庫を補充するために複数の提案依頼書(RFP)を自動的に発行し、複雑な取引条件の交渉を行い、最適なサプライヤーを決定しなければならない。このようなリスクの高い複雑なシナリオには、専門的で自律的なエージェントが必要である。
ただし忘れてはいけないのは、テクノロジーが進化してもレジリエンスには人間的要素が不可欠で、AIが取って代わることはできないということだ。
Vestager氏は、パンデミック期間を振り返って「CEOたちと話した際、誰もテクノロジーには言及しなかった。誰もが口にしたのは、頼れるサプライヤーとの関係、頼れる顧客との関係だった」と率直に述べた。同氏は「こうした重要な絆は人間同士が対話し、共通の利益のバランスを探ることによって生まれるもので、機械同士が対話することによって生まれるものではない」と強調した。
結局のところ、人間の組織がAIの進化についていけなければ、その真の価値は発揮されない。AIの技術革新は急激に加速している。Vogel氏は「AIの進化は人間の進化よりもはるかに速いペースで起こっている。もし今日全てのベンダーがAIの技術開発を止めても、人間がそこに追い付くには何年もかかるだろう」と述べた。高度な技術を得ても人間の準備ができていない状態では価値を発揮するのは困難だ。現在多くの組織はそうした状況に直面している。
AI産業革命で成功するには、深い文化的変革を遂げられるリーダーシップが求められる。リーダーは「AIは何ができるか」だけでなく、「人間は何をすべきか」を定義しなくてはいけない。
人間の能力を「代替」ではなく「拡張」することに焦点を当てることでこそ、リーダーは組織を持続可能な道へと導いていける。
【翻訳:田中留美/滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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