京都大学とKDDI総合研究所は公立千歳科学技術大学と共同で、宇宙光通信に向けた「周波数変調型フォトニック結晶レーザー」の開発に成功した。小型/軽量で高効率な衛星搭載型光送信機を実現することが可能になる。
京都大学とKDDI総合研究所は2025年11月、公立千歳科学技術大学と共同で、宇宙光通信に向けた「周波数変調型フォトニック結晶レーザー」の開発に成功したと発表した。小型/軽量で高効率な衛星搭載型光送信機を実現することが可能になる。
6G(第6世代移動通信)時代になると、その適用範囲は地球上にとどまらず、宇宙空間にまで広がることが想定されている。極めて長距離の光伝送を可能にする光送信機には、高い光出力やレーザーの可干渉性(コヒーレンス)を活用して受光感度を増やすための変調方式を開発する必要があるという。ところが、従来の半導体レーザーを用いると、システムが大きくなり、効率も低いという課題があった。
研究グループはこれまで、高いコヒーレンス性に着目し、フォトニック結晶レーザーを自由空間光通信の光送信機として利用することを提案してきた。そして今回、レーザーの発振周波数を、より効率よく変化させることができる新たなデバイス構造のフォトニック結晶レーザーを提案し、その動作を実証した。
新たに提案したフォトニック結晶レーザーは、共振周波数がわずかに異なる2つのフォトニック結晶を、レーザー内部に導入した。高周波数側のフォトニック結晶(PC1)と低周波数側のフォトニック結晶(PC2)である。その上部にある電極を分割してこれら2つの領域に、異なる電流を注入できる構造とした。
実験では、2つのフォトニック結晶の共振周波数差をΔf12と定義した。この値を適切に設計すれば、フォトニック結晶全体に広がる単一の発振モードが得られるという。この時、PC1の注入電流を相対的に増やせば、デバイス内部の光は高周波数領域側に多く分布する。これによってレーザーの発振周波数も増加することを確認した。
逆に、PC2の注入電流を相対的に増やすと、デバイス内部の光は低周波数領域側に多く分布することによって、レーザーの発振周波数は低下する。こうしたことから、2つのフォトニック結晶領域の注入電流を高速に増減すれば、レーザーの発振周波数を高速に変調できることを実証した。この時、2つの領域に注入する電流の合計値が一定であれば、デバイスから得られる光出力もほぼ一定に保たれ、光の強度変化を抑えることができるという。
今回作製したデバイスの場合、発振周波数の変化を従来の2倍に拡大しつつ、雑音の増加につながる強度変化は、従来の4分の1以下に抑えられることを確認した。
左は作製した周波数変調型フォトニック結晶レーザーの写真、中央は作製したデバイスの電流−光出力特性と遠視野像の測定結果、右は作製したデバイスの発振周波数変化および、強度変化の測定結果[クリックで拡大] 出所:京都大学研究グループは、作製した周波数変調型フォトニック結晶レーザーを用い、宇宙光通信を模擬した実験を行った。光出力1Wの周波数変調型フォトニック結晶レーザーで生成された周波数変調信号を、光ファイバー増幅器やレンズを使わず自由空間を伝搬させた。そして宇宙光通信時の伝搬損失を模擬するための光学系を通過させ、微弱な変調信号を生成した。
その後、発振周波数が近い別の参照用フォトニック結晶レーザー光と干渉させ、バランスドフォトディテクターで受光。その干渉信号に現れるビート周波数の時間変化をデジタル信号処理によって復元した。受光パワーを変化させた時のビットエラーレートを測定したところ、信号の伝送速度が0.5Gビット/秒の場合、出射光強度を88dB減衰させても通信が行えた。伝送速度を1Gビット/秒まで上げて、出射光強度を81dB減衰させても通信が成立することを確認した。
研究グループがこれまで行ってきた通信実験の結果と今回の測定データを比べたところ、許容できる最大の光減衰量は2〜3倍に増えた。これを伝送距離に換算すると1.5〜1.7倍の向上(伝搬距離は6万km程度)に相当するという。光源の大面積化を行えば、理論的に光出力は10倍に、伝送距離も3倍以上にそれぞれ増やすことができる。伝送速度を4Gビット/秒まで向上させることも可能だという。
今回の研究成果は、京都大学工学研究科附属光・電子理工学教育研究センターの井上卓也准教授、高等研究院の野田進特別教授、工学研究科の森田遼平非常勤講師、附属光・電子理工学教育研究センターのデ ゾイサ メーナカ教授、石崎賢司特定准教授らのグループと、KDDI総合研究所、公立千歳科学技術大学らによるものだ。
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