東北大学らを中心とした共同研究グループは、全固体リチウム硫黄電池(SSLSB)の正極内部における充放電反応を高い空間分解能で可視化する手法を確立した。この手法を用い、SSLSBにおいて高速充放電とサイクル安定性を阻害している要因を突き止めた。この手法はさまざまな電池系の電極設計に適用できるという。
東北大学多元物質科学研究所の木村勇太准教授や大野真之准教授らを中心とした共同研究グループは2025年10月、全固体リチウム硫黄電池(SSLSB)の正極内部における充放電反応を高い空間分解能で可視化する手法を確立したと発表した。この手法を用い、SSLSBにおいて高速充放電とサイクル安定性を阻害している要因を突き止めた。この手法はさまざまな電池系の電極設計に適用できるという。
SSLSBは、硫黄の高い理論容量と固体電解質の安全性を備えた蓄電デバイス。ただ、高速充放電が難しく、充放電を繰り返すと容量が顕著に低下するという課題があった。ところがこれまで用いられてきた解析手法では、SSLSBの性能向上を阻害している本質的な要因を解明するまでには至らなかった。
研究グループは今回、大型放射光施設「Spring-8」のBL37XUで得られる高輝度X線を用いたX線CTによって、SSLSB正極内部における充放電反応の空間分布を直接観察することにした。具体的には比較的低エネルギーの高輝度放射光X線と、独自開発のオペランド計測セルを組み合わせることで、精密な計測に成功した。
この結果、放電速度を上げるとリチウムイオンが供給される固体電解質層側で、優先的に放電反応が進んだ。一方で反対側の集電体付近では反応が十分に進まないことが分かった。つまり、高速放電時は電極全体にリチウムイオンを行き渡らせることが難しく、これが容量の低下につながっていることを確認した。
しかも、充電時には放電時に比べ反応がより不均一となり、固体電解質側で充電反応が集中的に起こる。一方で集電体側は充電反応が一層起こりにくくなることも判明した。これは、充電後も集電体付近にリチウム化した硫黄が取り残されてしまうことを意味するものだという。
充放電時に反応分布が非対称となり、充電反応に使えないリチウム化硫黄が電極内に蓄積することが、安定した充放電サイクルを阻害する原因となっていることを突き止めた。そこで、差分進化アルゴリズムを用い、実験で得られた反応分布データから正極複合体内の実効的なイオン伝導度を逆算した。これにより、充電時にはこの値が放電時の約3分の1に低下することが分かった。この劣化が反応分布の非対称性を生み出す主な要因であることを定量的に示した。
今回の研究成果は、東北大学の木村勇太准教授や大野真之准教授らの他、田中舞大学院生、Jan Huebner助教、雨澤浩史教授、川崎栞大学院生、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の石黒志准教授、九州大学の柳原祥馬大学院生、名古屋大学未来材料・システム研究所の中村崇司教授、高輝度光科学研究センターの関澤央輝主幹研究員、新田清文研究員、京都大学大学院人間・環境学研究科の内本喜晴教授らによるものだ。
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