このようにトップダウン型の強硬な政策は、中国などの競合国が実施する国家主導の戦略と構造上よく似ている。
中国の戦略は、しばしば「グレーゾーンアプローチ」と位置付けられる。武力紛争を引き起こすことなく戦略的環境を再形成するための「経済を軸にした」「段階的かつ長期的な」施策である。
中国政府は「一帯一路構想」や技術的依存を通じて、地政学的な目的のために企業に影響力を発揮してきた。米国の手法も経済を軸にしている点では似ているが、技術を急速に中央集権化するための、より加速的で強制力の強いアプローチだといえる。
その結果、シリコンバレーと米国政府が融合して単一の「国家産業複合体」となり、企業戦略は地政学的コンプライアンスと切り離せなくなっている。しかし関係者は「米国にはその目的を達成できる十分な力があるのだからロシアの認知戦争を模倣する必要はない」と警告している。急速な産業再構築のために経済的強制に頼ることは、非介入主義の原則からの明らかな逸脱である。
政権の戦略的アプローチをさらに強化するために、ホワイトハウスは司法省内に「AI訴訟タスクフォース」を設置することを提案し、開発の合理化と国益の保護に向けた積極的な姿勢を示した。
このタスクフォースは州を提訴する権限を与えられ、「州の警察権の先取り」や「州にまたがる通商に過度な負担を課す規制(州のAI安全法など)を抑制すること」を目的としている。これによって規制が明確化し、規制緩和された連邦基準が統一され、国内に投資する企業を免責することになる。
政府による民間セクターへのこうした不透明で急速な介入により、偏向的な優遇の可能性や市場のゆがみに対する懸念が増している。これに対し、米国の保守系シンクタンクであるAmerican Compassの政策アドバイザーを務めるDaniel Kishi氏は「中国の補助金がすでに市場を腐敗させている」と主張し、介入を擁護する。同氏は「貿易相手国の略奪に対抗するには、独自の産業政策が必要だ」と主張している。
しかし、批評家たちはこの新しいアプローチを非常に恣意的なものと見ている。Center for Strategic and International Studies(戦略国際問題研究センター)のシニアアドバイザーを務めるWilliam A. Reinsch氏は、トランプ大統領は「気まぐれ」に投資しているように見えると指摘し、「トランプ大統領に戦略があるとは思えない。場当たり的に戦術を重ねているように感じられる」と付け加えた。米国のシンクタンクであるBrookings InstitutionのシニアフェローであるDarrell M. West氏も「よく練られた政策とは思えない」と同意し、「納税者の資金を危険にさらしている」と述べている。
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