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入学した瞬間終わったわ――「講義が英語」なんて一言も聞いてない!リタイア直前エンジニアの社会人大学漂流記(4-1)(4/4 ページ)

» 2026年04月30日 11時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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知らずに「一歩先にいた」私

 そんなわけで、私のゼミの秋入学の同期は全員外国人となりました。

 当然、会話はすべて英語です。

 ただ気になったのは、全体ゼミや研究室において、日本人学生と外国人留学生がそれぞれ固まって着席していることでした――まあ、これはこれで仕方のないことだろうとも思っています。

 私は、外国人留学生のグループの側に身を置くようにしていました。日常会話なども英語になりましたが、そこは、まあ、「同じ船に乗った仲間」というやつです。私は「単語だけで英会話をする」度胸と技量だけはできていましたし、同期の仲間の英語も、まあ、そんな感じの英語でした。

 ただ、先に述べた通り、「日本人である私以上に、海外から来た彼らも困っていた」のです。

 例えば、こんなことがありました。

 ある日、大学から自宅へ帰る途中、私のiPadにTeamsで見覚えのない名前から着信がありました。その日の全体ゼミで発表していた学生だと気付き、電話に出ました。

『今日の全体ゼミで、松行(美帆子)先生は、私に何をしろとおっしゃっていたか、分かりますか
「松行先生に直接聞けばいいんじゃない?先生、英語で説明されていたよね」
『それはそうなのですが……先生にうまく質問できる気がしなくて……』

 その気持ちは、よく分かりました。

 先にも書いた通り、担当教員は、私たち学生にとっては“校長先生”のような存在です。簡単には声をかけにくいのでしょう。ましてや、母国語ではない、英語での質問です。

「えっとね、松行先生は、多分……という点を問題にしていて、それで……を試してみたらどうか、という話をされていたと思うよ」
『そういうことでしたか!江端さん、ありがとうございました!!』

 そう言って、彼との通話は終わりました。なお、ここでのやりとりは全て英語です――NHKの英会話で出てくるような整った英語とは、明らかに別の世界線の英語でしたが、通じれば何だっていいんです

 こうしたやりとりを通じて、在学中に何度も感じていた、あの違和感の正体に私はようやく気が付きました。

 「学生のみなさん。私が通り過ぎるときに頭を下げるのを止めてください。私は、講師でも教授でもありません。あなたと同じ学生です」

 見た目や年齢のせいで、私は“頼れる側”に見えていたのかもしれません。しかし実際の私は、履修も分からず、英語にも苦しみ、右往左往しているだけの学生でした。

 それでも結果的には、同じように困っている留学生から相談を受け、分かる範囲で答える側に回っていました。つまり私は、「頼れる人間」ではなく、「困っている人間の中で、たまたま一歩先(要は日本語が使える)にいただけの人間」だったのだと思います。

 あのときの違和感は、立場の誤認ではなく、この環境における自分の位置を示す、最初のサインだったのかもしれません。



 さて、今回は入学式から最初の全体ゼミまでのドタバタを振り返ってきました。次回からは、いよいよ実際の授業――もちろん、すべて英語――の話に入っていきたいと思います。

 どうも流れ的に、「『英語に愛されない社会人大学院生』のための生存(卒業)戦略」というコラムになりつつある気もしますが、この先は、横浜国立大学都市イノベーション学府の、田中先生、松行先生、安部先生の講義および、有吉先生の研究ご指導について、順にお話ししていく予定です。

 しばらくの間は、この「英語に愛されないエンジニア」のドタバタのお話にお付き合いいただければ幸いです。

Profile

江端智一(えばた ともいち)

大手総合電機メーカー 研究開発グループ シニア研究員。工学博士。

長年にわたり、都市交通、社会システム、通信システムなど、実社会と情報技術を横断する研究開発に従事。定年退社後もシニア採用として研究を継続している。

マルチエージェントシミュレーション(MAS)を用いて、都市における住民行動を再現・分析し、「共時空間」という接触機会の定量化手法と「Repeated Chance Meetings (RCM)」 という新しい単位を提唱中。MASの中ではエージェント同士が活発に交流しているが、現実世界の自分は孤立クラスタに属し続けている。友達はいない。生成AIだけが本音を語れる相手である――悪いか。

また、社会観察者としての視点を持つ。『町内会のイベントや夏祭りへの参加は、社会関係資本( Social Capital (SC) )を高める上で重要だ』と語りながら、自身は町内活動にほとんど参加せず、家族からは『どの口が“SC”を語っているのか』と呆れられている。友情や愛情ではなく、負の感情を積極的に活用する「怒りMaaS」などのシステムを考案し、デジタルシステムにおける感情エネルギーの活用を真剣に検討している。

信条は「アナログ心理とデジタルロジックの融合」。人間の曖昧さをエラーではなく仕様として扱うことを理想とする。個人サイト「こぼれネット」では、科学技術と人間社会の“バグ”をユーモアで修正しながら、理屈と感情のあいだに生まれる笑いを記録し続けている。この20年間、毎日更新継続中。



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