本稿で見てきた装置市場の歴史を振り返ると、一つの法則が浮かび上がる。パラダイムシフトが起きた時、それをものにした企業が飛躍するということである。
枚葉式洗浄装置では、2000年代に洗浄の主流がバッチ式から枚葉式へと移った。この転換をいち早くものにしたSCREENは、2002年ごろに10%強だったシェアを2008〜2009年には56%まで高め、先行していた欧米のSEZ、FSI、Semitoolの3社を抜き去った。
マスク検査装置では、EUVの量産適用という転換が起きた。透過型から反射型へとマスクが変わる中で、アクティニック光による検査装置をいち早く実用化したのがレーザーテックである。同社は2019年に17%程度だったシェアを2023年に52%まで伸ばし、かつて90%近いシェアを握っていた絶対王者KLAを追い抜いた。
露光装置でも同じことがいえる。EUV露光装置の実用化に成功したASMLは、EUVを独占的に供給し、露光装置を市場規模でも成長率でもトップに押し上げた。
逆にいえば、どれほど高いシェアを持つ企業でも、パラダイムシフトを捉えることができなければ、その地位は揺らぐ。装置市場の勝敗を分けてきたのは、既存の市場での「規模」ではなく、「変化」をものにできたかどうかだったのである。
そして生成AIは今、新たなパラダイムシフトを次々と引き起こしている。GPUやHBMに代表される3次元積層、GAA(Gate-All-Around)およびバックサイド電源供給(BSPDN)などの新しいトランジスタ構造および配線構造の変革、さらにはHigh-NA EUV、チップレットと先端パッケージングなどである。これらの変化をものにした企業が、次の時代の勝者となるだろう。
半導体市場と装置市場の間に大きな乖離が生まれつつあること前述した。しかし、これは装置市場の成長が鈍いことを意味しない。図12で見たように、2022年を1とすると、装置市場は2025年に1.3倍となり、2028年には2.1倍に達すると予測されている。わずか6年で市場規模が2倍を超えるのである。
SEMIの予測では、2026年の装置市場は前年比約1.9倍の1511億米ドルと過去最高を更新し、その後も拡大が続く見込みだ。図1の通り、装置市場はこれまで、ITバブルの崩壊、リーマン・ショック、メモリバブルの崩壊のたびに大きく落ち込んできた。そう考えれば、2022年から2028年にかけて右肩上がりの成長が続くという予測は、異例ともいえる。
しかも、半導体市場の伸びが装置市場の伸びを大きく上回っているということは、メモリメーカーをはじめとする半導体メーカーが、空前の利益を手にしつつあることを意味する。その利益の多くは、いずれ生産能力の増強、すなわち装置への投資に向かうはずだ。そうであれば、半導体市場と装置市場の乖離は、装置市場にとっての「伸びしろ」と見ることもできる。
生成AIがもたらした装置市場の拡大は、まだ始まったばかりなのである。その拡大の只中で、どのようなパラダイムシフトが起き、どの企業がそれをものにするのか。その行方を今後も注視していきたい。
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1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。毎月2回、メルマガを配信中です。詳細はこちらから。
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