それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。
【1】CSAJの人工知能(AI)技術研究会にて講演する機会をいただき、その内容の一部を、本コラムで紹介しました。
【2】第1次と第2次のAIブームの際に、「AIが人間に取って替わる」と発言していた、3人の世界的な人工知能の権威を、嗤い(×笑い)者にしてきました。そして、今回のAIブームにおいても、根拠なくそのような発言をし続けている人を、将来、同じ目に遭わせるぞ、と宣言しました。
【3】過去のAIブームの「希望」と「絶望」が、どのように発生していたのか、その具体例を調べて、ざっくりとまとめました。
【4】AI技術のいくつかは、素晴しい成功を収めており、完全に実用化されていることを明らかにした一方、成功し実用化されたAI技術は、AIと認定されなくなっている事実を示しました。これが、AI技術の成否にかかわらず、AIブームを収束させる原因の一端になっているという、江端見解も併せて紹介しました。
【5】AI技術の一つである「ゲーム理論」について、「囚人のジレンマ」「吉田屋 vs. 大スキ屋」「チキンレース」を例にして説明しました。特に、「チキンレース」が、某国の核戦略の基軸となっている事実を示し、現在、世界が非常に危険な状態にあることを示しました。
【6】ゲーム理論の実際の応用例として、「『グルメな彼氏』攻略ゲーム」というゲームを考案し、「min-max戦略」が実際にどのように動くのかを具体的に示しました。総括として、ゲーム理論の基本的な考え方は「最悪の中の最良を選ぶ」であることを説明致しました。
以上です。
映画「ビューティフルマインド」で登場する数学者ジョン・フォーブス・ナッシュの、「ナッシュ均衡」はとても有名な話です。
映画の中の話では、合コンにおいて「男どもは、一番飛び抜けてベッピンのマドンナを狙わない」という戦略が、結局全員をハッピーにするという話が出てきます(映画の例では、最適戦略は成立しないのですが、それはさておき)。
私は、これまでの人生で「合コン」に参加したことは1回だけです。そして、その"1回"だけで、早々に私は「このフィールドで、私に勝ち目はない」と判断しました。
私の場合、「合コン」ではなく、『何年もの間、細いコネクションを保持して(1カ月に1度くらい電話する、とか)、チャンスを待つ』という姑息な戦略を実施し続けていました(ブログ)。
今になって思うと、これは、ゲーム理論のmin-max戦略の一形態だったような気がします*)。
*)当時の嫁さんが、見合いを繰り返すことで、見合い相手を「より厳しく」査定する「min戦略」を実施し続けている一方で、私は、当時の嫁さんに定期的に連絡を取り続け、自分の評価の「底値」を買い支えるという「max戦略」を実施し続ける、という戦略。
―― というか、そもそも、わが国には、「ナッシュ均衡」をやすやすと破壊する素晴らしいシステムがあるのに、なぜ、多くの(特に若い)人が、そのシステムの利用を避けるのかが、私には理解できません。
その「『ナッシュ均衡』破壊システム」とは、
生涯の伴侶を選ぶことを可能とする、競合ゼロの究極のブルーオーシャン戦略
―― 『お見合い』です。
今や、『未婚で恋人のいない20〜30代男女、37.6%が「恋人は欲しくない」。「恋愛が面倒」「自分の趣味に力を入れたい」(内閣府少子化社会対策白書)』という調査結果が出ています。
確かに「恋愛が無条件に良いもの」とはいえないことは、私も良く知っています。恋愛が、面倒なことも知っています。
恋愛は、結構な確率で、傷つけられるし、嫌な目にも遭わされますし、逆に言えば、私も、誰かを傷つけ、嫌な目にも遭わせてきたはずです。何より、恋愛とは、本人が望めば直ちに開始できるというものではありません。
『命短かし恋せよ乙女』とか、「余計なお世話」ですし、そもそも「私が恋愛しないことで、アンタに何か迷惑かけたか?」と思いますよね。
だから「恋愛のプロセスなんぞすっ飛ばして、お見合いから結婚に至ればいい」と思うのです。
そもそも「結婚の前提に恋愛がある」なんてきまりはないし、そういうトレンドは、ごく最近のことです(まだ、(現代風の)恋愛の概念の発生から100年も経過していないだろう)。
恋愛至上主義の概念で凝り固まった世間から、「なぜ(恋愛プロセスをスキップして)結婚するのか」と問われれば、「そこに結婚(という概念)があるから」と答えれば十分だと思うのです。
なにしろ、「なぜ山に登るのか」と問われて、「そこに山があるから」というふざけた応答が、(敬意をもって) 世間に受け入れられているくらいなのですから。
つまるところ、結婚はギャンブルです。しかし、確率的には、十分に賭ける価値のあるギャンブルです。私は、きちんと計算をした上で、その根拠を示しています(参考記事:Business Journal)。
私は、シミュレーションも行わず、データも示さず、「あと20年後にAIで○○ができる」などと、適当に語る博士や教授たちとは違うのです。
⇒「Over the AI ――AIの向こう側に」⇒連載バックナンバー
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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