人体無線網(BAN)の特色は、人体を中心としたわずかな距離でデータをやりとりすることだ。現在、携帯型の電子機器といえば、携帯電話機やPDA(携帯型情報端末)、ノート・パソコンなどがある。プロセッサを搭載し、一般的なデータ処理能力を備えることが特徴だ。なおかつ、外部のインターネット網との通信機能を標準的に内蔵する。これらの携帯機器がBANにも役立つ。複数のセンサー・ノードから情報を収集する機器(「コーディネータ」と呼ぶ)になるからだ。
携帯機器は、例えば無線LANや携帯通信網を介して外部のネットワーク(インターネット)と接続する(図1)。高い処理能力を備えるサーバーにネットワークを介してデータを移動し処理して、さまざまなサービスを利用者に提供する仕組みである。
生体情報を継続的に収集して活用するセンサー・ネットワークは、日常生活や医療機関などの様相を大きく変える可能性を秘める。「これまで、生体情報はほとんど活用されてこなかった。しかし、うまく利用すれば、例えば健康の維持やリハビリテーション支援といったさまざまな用途に活用できる」(動物や人間の行動分析アルゴリズムの開発を手掛けるベンチャー企業であるバイセンの代表取締役社長を務める千田廉氏)。
生体情報を生かせる用途を分類すると、主に3つに分けられる。前述のヘルスケアと医療*3)、そして見守り(監視)である(図2)。
ヘルスケア用途に関しては、例えば3軸加速度センサーが役立つ。センサーのデータから消費エネルギ量を算出可能だからだ。日常の運動量の目安を知ることで、健康管理に生かせる。ランニング時やウオーキング時の姿勢を補正するための情報を得ることもできる。このほか、体温や心拍数を常時モニタリングしてデータ処理していれば、病気の前兆を知ることができるだろう。
2つ目の医療の分野については、医師・看護士の側と患者の側それぞれにメリットがある。例えば、複数の患者の生体情報を集中的に常時モニタリングすれば、医師・看護士の負担を増やすことなく、今以上にきめ細かい医療を提供できるようになる。センサーと機器をつなぐ既存のケーブルを無線化すれば、患者の行動自由度が高まる。日々の状態管理のほか、治療後の経過観察やリハビリテーション支援にも使える。
最後の見守り(監視)の分野に関しては、いわゆる「在宅医療」と安全確保の用途がある。生体情報を測定・収集して、医師が診断できるようなシステムを構築すれば、宅内にいながら健康診断を受けられる。さらに、「起きている」、「倒れている」といった状態を、その当事者から離れた場所で監視できれば、工場や造船所といった危険度が高い場所で働く人の安全確保に使える。「当事者が気付かない危険を察知する目的で、試験的に導入した事例がある」(東京大学の保坂氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.