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活用始まる人体無線網、ヘルスケアから新市場が立ち上がる無線通信技術 BAN(7/8 ページ)

» 2008年12月01日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

国際標準策定は佳境に

 IEEE 802.15.6の策定作業は現在、佳境を迎えている(図3)。具体的には、対象とする利用シーン(アプリケーション)を規定した資料や、規格のTRDといった、規格策定を進める上で重要な書類が、2008年11月に米国で開催された会合で最終的にすべて採択された。その結果、PHY層やMAC層を規定した規格案を、各企業や研究組織から募る段階(「Call for Proposal」と呼ぶ)に間もなく入る(2008年11月末現在)。2008年11月の会合に参加した横浜国立大学の河野氏は、現在の状況について「今が一番、ホットな(盛り上がっている)時期だ」と語る。実際、規格案を提出すると名乗りを挙げたグループの総数は70を超えたという。「これは非常に多い数だ」(NICTの李氏)。

図 図3 国際標準規格IEEE 802.15.6の策定スケジュール 2009年9月には、規格内容の大枠が定まる見込みである。対応チップの開発もこの時期に始まるとみられる。

 今後は、各企業や研究組織がIEEE 802.15.6の規格案の作成を進めることになる。それぞれが作成を進める規格案において、利用する周波数帯域と、PHY層とMAC層の大枠に関する基本的な策定方針はすでに固まっているようだ。

 具体的には、利用する周波数帯としては、体内埋め込み型医療機器のデータ伝送に割り当てられた400MHz帯や、無線医療テレメトリ・サービス(WMTS)に割り当てられた420M〜1429.5MHzの範囲の複数の周波数帯、2.4GHz帯、3.1G〜10.6GHz帯が候補に挙がっている。一方のPHY層とMAC層の大枠に関しては、利用する周波数帯が異なる複数のPHY層を規定することで、さまざまな用途に対応できるようにする。MAC層を共通化することで、相互接続性を確保する。「このような、マルチPHYでシングルMACという方法をNICTが提案し、各企業や研究組織からおおむねコンセンサス(合意)を得ている」(横浜国立大学の河野氏)。

 今後の規格策定の手続きについては、2009年3月と5月にはそれぞれ、各企業や研究機関から提出された規格案の内容を確認する「Hear Proposal」という段階に入り、「2009年9月ころには規格の大枠が定まる」(同氏)という。各種投票の後、早ければ2009年末ころに作業部会のドラフト版が策定される見込みである。

データの見せ方が鍵

 人体無線網(BAN)で収集したデータを利用して、一般消費者やサービス利用者にどのような有益情報を提供するか――。ヘルスケアの分野では特に、収集したデータの処理方法や情報の見せ方が重要になる。例えば、3軸加速度センサーや心拍数計、体温計といった各種センサーで生体情報を収集した後、数値やグラフをそのまま表示しても利用者が得られる情報は少ない。例えば、3軸加速度センサーのデータを基に運動量(消費エネルギ)を算出して、適切な運動量かどうかを教えたり、心拍数や体温計から得たデータから現在の健康状態を評価したりといった見せ方をしなければ、一般消費者やサービス利用者にとって有益ではない。「データを取得しただけでは、何の意味も持たない。取得したデータを処理してどのようなサービスを提供できるか。その点が今後の市場拡大の鍵を握るだろう」(Nordic Semiconductor社の山崎氏)という。


図 図A 照度計のデータを基に行動を予測 人間の行動を「睡眠、パソコンで作業、読書、入浴、外出」の5つに分類して、行動を予測した。出典:東京大学保坂研究室

 東京大学の保坂氏は、「さまざまな生体情報を収集する無線センサー・ネットワークを構築した次の段階として、人間の行動把握や行動予測に関する研究・開発が重要になる」と語る。欲しい情報や必要な情報を自動的に受け取れる仕組みを実現するには、人間の行動把握や行動予測が必要になる。現在、同氏の研究グループは、測定して得た生体情報データを基に、人間の行動を予測するアルゴリズムの開発に取り組んでいる(図A)。実際に、生活が不規則になりがちな大学院生の生活パターンを照度計の情報を基に分類・予測したところ、「(現在のところ予測手法にもよるが、)60〜80%の精度で予測できる」(同氏)という。

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