3つの主な用途のうち、現在のところヘルスケア分野での事業化が先行している。「一般にヘルスケア分野は、医療分野に比べて参入障壁が低いオープンな市場」(東京工業大学大学院理工学研究科国際開発工学専攻の教授である高田潤一氏)だからだ。今後、医療や見守り(監視)の分野に展開していくとみられる。「高齢化の進展に伴って、安心・安全を確保するという(医療や見守り分野についての)潜在的なニーズは必ずある」(同氏)。すでに事業化への取り組みを始めているのはバイセンと日立製作所である。それぞれ、生体情報を収集するセンサーと無線機能を組み合わせたサービスを提供している。
バイセンは、Bluetooth通信機能と3軸加速度センサーを搭載した無線モジュールに、パソコン上で動くデータ処理ソフトウエアを組み合わせたサービス「LegLOG」を提供している。このサービスは、利用者が歩行しているときの上下と左右、前後方向の加速度データをリアルタイムにパソコン画面上で確認できるというものである。加速度データは見やすいように加工してある。
このサービスはさまざまな利用シーンがある。例えば、複数回、転倒したことがある人と、転倒したことがない人の歩き方を比較したところ、明確な差異があったという(図3)。具体的には、転倒しやすい人は、前方向に強く加速度がかかる傾向があるほか、歩くときに左右の重心バランスが乱れる。医療機関において、転倒事故を防止するというリスク管理などに使える。このほか、リハビリテーションにも活用できる。利用者にリハビリテーションに取り組んでもらいながら、体の動かし方などを定量的に、しかもリアルタイムに評価できるわけだ。「リハビリテーションを支援する側は、このツールによって、的確なタイミングで、的確なアドバイスをすることが可能になる。この意義は大きい」(バイセンの千田氏)。
このほか、美しい歩き方を習得する目的で、ウオーキング教室で使った例もある。「データを収集・評価して、加工した情報をユーザーに提供するという取り組みは、これまでほとんどされてこなかったことだ」(同氏)と今後の事業拡大に自信を見せる。現在提供しているモジュールの外形寸法は38mm×38mm×11mmで重量は18.2g。連続稼働時間は4.5時間である。
一方の日立製作所は、「コレクトロ(Collectlo)」と呼ぶSaaS(Software as a Service)システムを試験運用中である(図4)。血圧計や体脂肪率計(体組成計)で測定したデータを、センサー周辺に置いた無線ゲートウェイを介して、インターネット上のサーバーに送る。その後サーバーで、データのフォーマットを「XML」などに変換するといった処理を施して、ウェブ・サービスとしてサービス事業者に提供する。
「(測定したデータを手軽にウェブサイトで見られるというサービスは)市場の要求が高いと考えている。できるだけ早く正式提供を始めたい」(日立製作所の担当者)という。現在、医療診療所への支援や食事内容の指導を手掛けるリンクアンドコミュニケーションなどが、このSaaSを使ったサービスを健康保険組合などに向けて試験的に運用している。
前述のバイセンも日立製作所と同様に、インターネットを利用したシステムの構築を進めている。3軸加速度センサーをはじめ、血糖値測定計や体重計、血圧計で測定したデータを無線で、個人が携帯するPDAなどに収集する。その後、無線LANなどで送ったこれらのデータをサーバーで処理し、ユーザーに有益な情報にした上で、PDAで利用者に見せるというものだ(データの処理や加工に関しては、別掲記事「データの見せ方が鍵」を参照)。
収集したデータの処理や加工に関して同社はすでに、3軸加速度センサーの情報を基に「歩いている」、「自転車に乗っている」、「電車に乗っている」など、人間の行動を分類可能な行動解析ソフトウエア「メタボレンジャー」を開発済みだ。
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