ワイヤレス給電関連製品の市場投入の動きが盛り上がるかどうか、そして一般消費者に受け入れられるかどうか、はっきりと分からない状況で日本国内で製品投入の先陣を切ったのが、日立マクセルだ。
非接触で機器に電力を送るワイヤレス給電システムを製品化する動きが活発化している。パナソニックや三洋電機といった電機メーカーのみならず、通信事業者であるNTTドコモも、ワイヤレス給電機能を内蔵したスマートフォンの製品化を表明した(関連記事)。
いずれの製品も、近接電磁誘導を使ったワイヤレス給電技術の普及促進を目的にした業界団体「Wireless Power Consortium(WPC)」のQi規格に準拠しており、互換性があることが特徴だ。
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ただ、このように製品投入の動きが表面化してきたのはここ半年と、ごく最近のことだ。Qi規格が策定されたばかりの2010年9月にさかのぼると、Qi規格に対応した製品が本当に幾つも登場するのだろうかと、懐疑的に見る向きも少なくなかった。
規格が策定されたことと、規格に準拠した製品が実際に世の中に登場するのとでは、その規格に対する印象は大きく異なる。製品化の機運が盛り上がるかどうか、そして一般消費者に受け入れられるかどうか、はっきりと分からない状況で日本国内で製品投入の先陣を切ったのが、日立マクセルだ。2011年2月7日にQi規格に対応したワイヤレス給電パッドを発売すると発表し、同年4月に販売を開始した。
販売を開始して、2カ月が過ぎようとしている。同社の商品開発本部 商品部副部長兼 HDD・新分野グループのリーダーを務める今津龍也氏に、製品化に至った経緯や現在の販売状況、今後の展開を聞いた。
EE Times Japan(EETJ) なぜ、ワイヤレス給電システムを発売したのか。動機を教えてほしい。
今津氏 当社は記録メディアのメーカーというイメージが強いかもしれないが、実は電池事業に強みがある。電池を長年扱ってきたこともあり、エネルギーを「ためる」、「伝える」は当社の事業領域だと考えている。エネルギーを伝えるという観点で、ワイヤレス給電技術は電池と密接に関連しており、技術の種として研究開発を続けていた。これが、ワイヤレス給電システムを製品化した背景にある。
さまざまな電子機器の充電の手間を考えると、ワイヤレス給電技術は魅力的だ。特に、スマートフォンはすぐに電池残量が無くなってしまうため、手軽に充電するニーズは高い。
ワイヤレス給電製品を出したいと思案しているときに、WPCがワイヤレス給電に関する標準規格(Qi規格)を策定した。市場に出せる製品もあるし、標準技術もある。時間がたてばいずれかの企業が製品を発売するだろう。しかし、それを待たずに、日本国内では一番手で発売しようと考えた。それは、われわれが先駆者になろう、マーケットをリードしていきたいという意気込みの表れだ。
当社は、アルカリ電池を「ボルテージ」というブランド名で販売している。これにちなんで、ワイヤレス給電システムのブランド名を「エアボルテージ」と名付けた。電力が空気を介して伝わるというイメージだ。
EETJ Qi規格のワイヤレス給電技術では、送電側に3つの方式を規定している(関連記事)。その中で、Convenient Powerのマルチコイル方式を採用した理由は何か。
今津氏 総合的に判断して決めた。一般的な議論として、機械的な駆動部がない方が故障も少ない。実際に評価したのは、Convenient Powerのワイヤレス給電システムだけである。
EETJ 2011年4月25日に販売を開始した。反響を教えてほしい。
今津氏 あらかじめ用意しておいたカタログもだいぶ減っており、店頭に並んだ商品の注目度は高いと考えている。ただ、今の段階の売れ行きはスローかもしれない。ワイヤレス給電システムは新しいカテゴリの製品で、市場に登場したばかりなので、まだ様子見の消費者が多いようだ。
市場の動きを見ると、当社の他にもパナソニックや三洋電機、NTTドコモもQi規格準拠の製品を発売するなど、注目度が一気に高まっている。一般消費者や小売店、メディアから当社への問い合わせは多く、市場の立ち上がりにはある種の安心感を持っている。
EETJ 今後の製品計画を教えてほしい。
今津氏 詳細は明かせないが、いろいろと開発を進めている。最初の製品は、ワイヤレス充電ステーションとiPhone4用充電カバーだった。これは、最も普及しているスマートフォンがiPhoneだったからだ。今後は、iPhone以外のスマートフォンに向けた品種の製品化を検討している。当社の電池とワイヤレス給電技術を絡めた製品も、今後の開発方針として持っている。この他、宅内以外で使ってもらう取り組みも進める必要があるだろう。
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