Tabulaは、プログラマブルロジック領域に実装する回路を動的に再構成し、時分割で書き換えることで実効的なロジック規模を拡張する「3PLD」を手掛ける新興ベンダーだ。動的再構成技術はこれまでさまざまな企業が提案したものの、一般的な普及には至っていない。3PLDはそうした過去のチップとは違うという。
「3PLD(Programmable Logic Device)」と呼ぶ独自アーキテクチャのFPGAを手掛けるTabula(タブラ)は2011年10月18日、東京都内で記者会見を開催し、製品の特徴や事業戦略などについて説明した。同社は米国カリフォルニア州サンタクララに本社を置く新興のFPGAベンダーで、創立は2003年である。2011年に入ってから日本国内での事業展開を活発化させており、5月には組み込み機器の総合展示会「第14回組込みシステム開発技術展(ESEC2011)」に出展し(参考記事その1)、6月には日本事務所を開設していたが(参考記事その2)、日本で記者会見を開催するのは今回が初めてだ。同社の創業者で社長兼最高技術責任者(CTO)を務めるSteve Teig氏が登壇した。
Teig氏は、会見の冒頭で同社のFPGA製品を「既存のFPGAを超える、新たなクラスのプログラマブルデバイスだ」と表現した。「先例の無いような高い機能を、大量生産の機器に組み込めるような低い価格で提供する」(同氏)。それを可能にするのが3PLDアーキテクチャだという。プログラマブルロジック領域に実装する回路を動的に再構成し、時分割で書き換えることで、実効的なロジック規模を拡張する同社独自の技術「SpaceTime」に基づくアーキテクチャである(詳細は、上記の「参考記事その1」をご覧いただきたい)。これにより実効的なロジック規模当たりのチップ面積を抑えられるので、価格を低く設定できるという。
Tabulaは同社初の3PLD製品である「ABAX(エイバックス)」を発表済みで、一部品種については既に出荷を始めており、開発キットも提供中だ。上記の参考記事で既報の通り、ABAXの実体はSRAMベースのFPGAであり、その点では大手FPGAベンダーのXilinxやAlteraのFPGAと変わらない。3PLDアーキテクチャを適用することで、これらの最大手ベンダーが40nmプロセス世代で製造するFPGAの最大規模品よりも高い機能を備えた製品を「大量購入時なら200米ドル以下の単価で提供できる」(Teig氏)ことが強みだとする。
ただし、動的再構成技術を採用したロジックチップは、これまでもさまざまな新興ベンダーが取り組んできたものの、幅広く普及するという状況には至っていない。これについてTeig氏は、「当社の3PLDは、そうした過去の動的再構成チップとは大きく2つの点で異なる」と主張した。1つ目は回路の動的再構成に要する時間が数千分の1と非常に短いこと、2つ目は動的再構成を使わない一般的なFPGAと設計フローが変わらないことだという。「過去に提案された動的再構成チップは、ユーザーに設計手法の変更を強いていた。3PLDでは、動的再構成技術はツールが全て自動的に処理するので、ユーザーはそれを意識することなく、既存の設計フローをそのまま適用して開発できる」(同氏)。
3PLDの普及に向けてTabulaがまず狙うのは、有線/無線の通信インフラ機器の市場である。Teig氏は、「3PLDアーキテクチャのFPGAそのものは、どんなアプリケーションにも使える。ただし当社はまだ規模が小さい企業である。全てのアプリケーションをサポートすることはできない。そこで、まずは成長性の高い通信インフラ機器の市場に的を絞って普及に取り組み、それから他の市場にも広げていくという戦略だ」と述べた。同氏によると、「iPhoneなどのスマートフォンは、売上高で見れば世界の携帯電話機市場の5%にすぎないが、データ通信量が極めて大きく、通信インフラの帯域幅の90%を消費しているという状況だ」という。「スマートフォンの普及は今後さらに進むと見込まれており、通信インフラ機器の性能を高めることが急務になっている。Tabulaにとっては、これが大きな商機になる」(同氏)。
既に通信機器の大手メーカーがABAXを無線通信基地局に組み込んで評価しており、「競合他社が提供するソリューションに比べて、3倍の通信量を処理できた。さらに、基地局1台当たりのコストを数百米ドルも削減できた」(Teig氏)という。
この他Teig氏は、3PLDの第2世代品を開発中であることも明らかにした。第1世代の現行品がTSMCの40nmプロセス技術で製造しているのに対し、第2世代品ではプロセスの微細化を進める。ただし、「詳細は2012年に発表する」(同氏)とし、具体的なプロセス世代や製品の仕様については明らかにしなかった。
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