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「ある意味、事件だ」 ―― “半導体のオリンピック”でアジア勢がアメリカを逆転ISSCC 2012 プレビュー

エレクトロニクスが次の10年にわれわれにもたらす革新は何か。そこで技術やビジネスを主導する国や地域、企業や組織はどこか。これを探る好機が、半導体回路技術で世界のトップ性能を競う国際会議「ISSCC」だ。そのISSCCの次回の概要が明らかになった。

» 2011年11月21日 16時52分 公開
[薩川格広,EE Times Japan]

 半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)」は、2011年11月21日に東京都内で記者会見を開催し、2012年2月19〜23日に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催する「ISSCC 2012」の概要を発表した。さらに同日(米国時間)、事前プログラム(Advance Program)もWebサイトで公開した。ISSCCは、今回で第59回目を数え、「半導体集積回路技術の分野では最も権威ある国際学会」(ISSCC 2012のInternational Technical Program Committeeで委員長を務めるルネサス エレクトロニクスの日高秀人氏)である。アナログや無線通信、高性能デジタル、メモリ、イメージセンサーといった10前後の分野それぞれにおいて、世界の企業や研究機関がトップの性能を競うことや、毎年、世界の地域別の採択論文数が話題になることなどから、「半導体のオリンピックとも呼ばれている」(同氏)。

図1 記者会見の様子 東京都内で開催した記者会見はISSCCのInternational Technical Program CommitteeのFar East Regional Subcommitteeが主催した。写真は、同Subcommitteeのメンバーら。(クリックで拡大)

 ISSCC 2012のテーマは「持続可能性を目指したシリコンシステム(Silicon Systems for Sustainability)」である。アジア委員会の副委員長(Far East Vice Chair)を務める東京大学・准教授の池田誠氏は、このテーマの意図を次のように説明した。「人間社会の将来にとっての最大のテーマの1つが『持続可能性』である。エレクトロニクスがこれに担う役割は大きい。今日の例では、電気自動車やスマートグリッドを下支えするシリコン技術が挙げられる。資源をより賢く再利用する、持続可能で包括的なシステムを構築するに当たって、シリコンやその応用技術で解決策を提供することが大きな目標になる。この目標を達成するには、半導体製造技術や回路技術だけでなく、システムレベルでの取り組みが重要だ」

 基調講演でも、このテーマに沿った講演が予定されている。すなわち、メモリとエネルギー、コントロール、コンピューティングという4つの見地から、それぞれの分野の権威が持続可能性を目指したシリコンシステムについて講演する。例えばメモリの分野からは、SanDiskの共同創設者であるEli Harari氏、コンピューティングの分野からはIntelのExecutive Vice PresidentのDavid Perlmutter氏がそれぞれ登壇する。日本からも、ルネサス エレクトロニクスの取締役執行役員常務である矢野陽一氏が講演に立ち、スマート社会を実現するためのコントロールについて語る。

地域別の採択論文で地殻変動が起きる

 ISSCC 2012の投稿論文数は628件と、前回(ISSCC 2011)の669件から6%減少した。ただし、採択論文数も202件で前回の211件から4%減らし、採択率を32.2%と前回の31.5%と同水準を維持することで、「論文の質は保っている」(日高氏)。

 地域別の採択論文数は、アジア地域(Far East)の企業や研究機関を筆頭著者とする論文が73件で全体の36%を占め、首位に立った。米州(Americas、実質的には北米)は68件(全体の34%)で、ついにアジア地域に続く第2勢力に転落した。米州はISSCCの発足以来、首位を堅持してきたので、この逆転劇は「ある意味、事件だ」(日高氏)。

図2 ISSCCの地域別採択論文数 欧州と米州(中南米からの採択は無いので実質的には北米)、アジアの3つの地域ごとに採択論文数の推移を比較している。ISSCC 2012では初めてアジアが北米を逆転し、首位に立った。各年度の最上段の数字は全体の採択論文数。2012年度はこの写真のスライドでは「203」となっているが、正しくは「202」である。各地域の数字は採択論文数で、かっこ内の数字は全体の採択論文数に対する当該地域の比率。(クリックで拡大)

 アジア勢の躍進の原動力は韓国である。組織別の採択論文数で、Korea Advanced Institute of Science and Technology(KAIST)が13件でIntelと並んでトップを飾った他、Samsung Electronics(Samsung Advanced Institute of Technologyを含む)が10件で4位に着けた。アジア勢ではこれに東芝が5件、台湾National Taiwan University(NTU)が4件、さらに富士通(富士通研究所を含む)とソニー、慶應義塾大学、東京大学がそれぞれ3件と続く。「韓国は大学も企業も、論文の投稿数が多い上に、採択基準も良く分析しており、採択率も高めてきている。韓国のこの勢いは今後も当分続くのではないか」(池田氏)。一方で日本勢については、「3月の東日本大震災の影響があり、投稿論文数の減少が見られた」(日高氏)という。ただし日本からの論文の採択率については、約44%と全体の平均を高く超えており、わずかだが韓国の採択率も上回っている。

図3図4図5 左の図は、国や地域別の採択論文数。かっこ内の数字は、左側が前回(ISSCC 2011)で右側が前々回(ISSCC 2010)。米国は今回も65件で首位を堅持しているが、本数は低下し続けている。韓国が前回の20件から今回は30件と大きく増やした。中央の図は、組織別の採択論文本数。これまで常にトップだったIntelに、今回は韓国の大学が並んだ。右の図は、日本と米国、韓国の採択論文数(左側の軸)と採択率(右側の軸)の推移である。採択率については、「米国は右肩下がりの傾向が見て取れる。日本は一時期減少したが、いまは盛り返しつつある。韓国が急速な伸びを見せており、当面は続くだろう」(東京大学の池田氏)と分析する

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