ST-Ericssonは、プロセッサ部門を、親会社であるSTMicroelectronicsに譲渡することで再建を図ろうとしている。だが、この計画は、STMicroelectronicsの株主たちの怒りを買い、最後まで遂行できない可能性もある。
巨額の負債を抱える携帯機器向け半導体メーカーのST-EricssonでCEO(最高経営責任者)を務めるDidier Lamouche氏は2012年4月23日、アプリケーションプロセッサ事業をSTMicroelectronicsに移管する方針を発表した(関連ニュース)。この再建計画にはある程度の意味はあると考えられるものの、運のないギャンブラーがダイスの最後の一振りに勝負を賭けるようにも見える。
ST-Ericssonが、主要事業を売却して新たな財政的支援を受けるという方法を選ばなかった(もしくは、選べなかった)ことで、同社の再建計画はお粗末なものとなった。同社は、全従業員の約25%に相当する1700人を削減する方針を明らかにしている。これは、過激な策に思えるし、職を失う従業員が不運であることは間違いないが、同社の抱える問題の大きさを明示しているとも言える。欧州では、このような大規模な解雇を伴う再建計画は労使協議会と労働者代表に判断を委任しなければならないため、事業からの撤退にかかる時間やコストがかさむと考えられる。このため、多くのアナリストは、ST-Ericssonの再建計画にこのような大規模なリストラが盛り込まれるとは予想していなかった。
Lamouche氏は、「コストを削減し、損益分岐点を半分に引き下げることで、2014年の黒字転換を目指す」と述べているが、これは口先だけのたわ言にすぎない。このような発言は、まるで、ST-Ericssonが長期的な治療が必要な患者であるかのような印象を与える。Lamouche氏はそれを成し得るだけの忍耐力を持ち合わせているかもしれないが、携帯機器市場がST-Ericssonの回復を待ってくれるとは思えない。ST-Ericssonの再建計画による成果が出始めるのは2013年末になると予想される。その頃には、携帯機器向け半導体市場は現在の右肩上がりの成長が減速するとみられ、より安定した経営基盤を武器にこうした市場の変化に機敏に対応できる企業がARMベースのSoC(System on Chip)のシェアを獲得することになるだろう。
さらに問題なのは、ST-Ericssonが事業を売却しなかったことで、同社の負債は親会社であるSTMicroelectronicsの決算で整理されることになり、長期にわたってSTMicroelectronicsの経営の足を引っ張るであろうことだ。この事実は、株主や金融アナリストの怒りを買うことになり、その結果、STMicroelectronicsがST-Ericssonの再建計画を2014年まで続けられなくなる可能性もある。
今回の再建計画を実施することで、ST-Ericssonは、携帯機器向けSoCとファームウェアの開発企業として、独自に開発したIP(Intellectual Property)コアと、ライセンス供与されたIPコアを混載したプラットフォームの開発に集中することになる。
ST-Ericssonは今後、Lamouche氏が「ModApp」と呼ぶこの戦略の下、モデムとアプリケーションプロセッサを統合したプラットフォームの開発を行う。同社は、収益性の高いモデムIP事業は継続する方針を示している。ただし、ARMベースのアプリケーションプロセッサコアと約500人の従業員はSTMicroelectronicsに移管する計画だという。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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