かつてApple Computerは、「当社はもう“コンピュータ”だけではない」というメッセージを込めて社名をAppleに変更した。アナログ半導体メーカーのMaxim Integrated Productsも同様に、「単に“プロダクト”を供給するだけではなく、“ソリューション”を提供していく」との意思を込めて、企業ブランドから「Products」を外した。
アナログ半導体の大手メーカーである米国のMaxim Integrated Productsは2012年9月20日に東京都内で記者会見を開催し、新たな企業ブランドを「Maxim Integrated」とすると発表した。今後は法人登記上の社名であり従来のブランドでもあった「Maxim Integrated Products」ではなく、この「Maxim Integrated」を同社の企業活動一切に適用していく。企業ロゴもデザインを刷新した。同社は来年(2013年)の春に創業30年を迎えるが、こうした企業ブランドの変更は今回が初めてだという。
この施策により、同社が近年打ち出している新たな方針を市場に訴求する狙いだ。すなわち、アナログ信号処理や電源制御/管理のさまざまな機能要素を1枚のチップに統合した集積度の高い大規模アナログチップに注力するという方針である。これを同社は「アナログ集積化(Analog Integration)」と呼ぶ。
今回の会見では、米国本社で通信およびオートモーティブ・ソリューション・グループ統括を務めるシニア・バイス・プレジデントのMatthew J. Murphy氏が登壇し、今回のブランド変更の背景について次のように説明した。「アナログ半導体業界は、その進化の過程の中で今、変曲点に差し掛かっている。向かう先はアナログ集積化であり、それに対応できない企業は今後成長できなくなるだろう。そのように業界が変化しているのだから、当社も変わっていく」。
同氏が言うアナログ半導体業界の進化の過程とはこうだ。初期のアナログ半導体業界は、アンプICやデータコンバータIC、インタフェースIC、電源ICといった、システムを構成するビルディングブロック(単機能の構成要素)を供給していた。次の段階では、それらを組み合わせて使いこなすための具体的な提案を“システムソリューション”などと呼んでユーザーに提供するようになった。参照設計やシステム構成のブロック図、推奨回路といった資料や設計サポートの形態で提供する。
そして今、また次の段階へ進むための変曲点を迎えており、その先にあるのがアナログ集積化だというわけだ。「携帯電話機でもコンピュータでも、無線通信基地局でも、この数十年間で大幅なダウンサイジングが進んできた。しかし、これらの機器の1台当たりのアナログ機能の数や専有面積を見ると、増加傾向にあるのが実情である。今後は、アナログ集積化によって、機能の増加と専有面積の抑制が強く求められるようになるのは自明だ」(Murphy氏)。
同社は、業界の中でアナログ集積化への対応を主導する存在だと主張しており、その実例としてスマートフォン向け電源ICを挙げた。「パワーSoC(System on Chip)」と呼ぶ。同社はこのパワーSoCに、スマートフォンの主要な構成要素であるプロセッサやディスプレイ、メモリ、無線フロントエンド、カメラなどそれぞれの電源回路に加えて、バッテリー管理回路やセンサー用フロントエンド回路、LEDやバイブレータ用モーターの駆動回路、さらにオーディオコーデック回路も集積している。「最も近い競合他社の製品を使うと、9個のチップを組み合わせる必要があり、回路の専有面積は321mm2と大きい。これに対し当社のパワーSoCは2個のチップで同等の機能を実現でき、回路の専有面積は117mm2と、64%も小型化できる」(同氏)。
同社はスマートフォンを含む消費者向け機器の市場のみならず、金融端末などのコンピューティング機器市場や、無線基地局などの通信機器市場、車載機器や公共メーター、医療機器などの産業機器市場に向けた製品についても、アナログ集積化を推し進めると表明している。
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