ルネサス エレクトロニクスは、100%子会社のルネサス モバイルが手掛けるモバイル事業の方向性を見直すと発表した。2010年12月の設立当時は、「世界市場でQualcommと肩を並べる」と意気込んでいたが、その2年3カ月後には「事業売却を含めたさまざまな選択肢を検討する」という結果が待ち受けていた。
ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は2013年3月12日、100%子会社のルネサス モバイルが手掛けるモバイル事業の方向性を見直すと発表した。2013年度末までをめどに、「事業売却を含めたさまざまな選択肢を検討する」(ルネサス)方針だ。
ルネサス モバイルは、スマートフォンやフィーチャーフォン、タブレット端末をはじめとするモバイル機器に用いるSoC(System on Chip)「R-Mobileシリーズ」やベースバンドIC、カーナビゲーションシステムなどの車載情報機器向けSoC「R-Carシリーズ」の企画/設計/開発を担当している。今回の発表で対象になっているのは、モバイル機器向けの製品だけで、車載情報機器向けは含まれていない。また、旧ルネサス テクノロジで産業機器向けに展開していた製品群も扱っていたが、これも見直し対象には含まないという。
ルネサスが2012年12月に、産業革新機構や顧客企業から約1500億円の出資を受けることを発表した際も、「車載情報機器と産業機器向けのSoCは重点分野」(ルネサス)としていた(関連記事1)。
ルネサス モバイルは、ルネサスのモバイル機器向けSoCと車載情報機器向けSoCの企画/設計/開発部門、2010年7月に約2億米ドルでの買収を発表したNokiaのワイヤレスモデム事業を統合して、2010年12月に発足した。約1900人の従業員数のうち、80%弱に当たる約1500人は海外で業務に従事している。
事業成長の柱として位置付けられていたのが、Nokiaのワイヤレスモデム事業が保有していた、3GやLTEといった携帯電話通信の信号処理に必要なIP(Intellectual Property)を用いたベースバンドICである。設立当時は、LTEに対応可能な技術を持つ半導体メーカーが少ないとして、「世界市場でQualcommと肩を並べる」(当時ルネサス モバイル社長の川崎郁也氏)と意気込んでいた(関連記事2)。
しかし、ルネサス モバイルの設立から2年3カ月経過した現在まで赤字続きで、「モバイル事業は過去約2年間に多大な損失を計上している」(ルネサス)という。損失の累計は約450億円にのぼる。
2013年2月にルネサスが行った2012年度第3四半期の決算発表会見(関連記事3)で、同社社長の赤尾泰氏(当時)は、「現在のルネサス モバイルの売上高は、フィーチャーフォン向けが中心で、赤字だ。しかし、既に約20件デザインインしているスマートフォン向け製品の売り上げが、2013年度の半ばから後半には立ち上がる」と期待を寄せていた。
しかし、ルネサスが直面している厳しい事業環境は、その「2013年度の半ばから後半まで」待つことを許さなかったようだ。
ルネサス モバイルが、ベースバンドICやモバイル機器向けSoCだけでなく、車載情報機器向けSoCも扱うようになった理由は2つある。1つは、通信機能を備えつつあった車載情報機器にも、将来的にベースバンドICの技術を融合する必要が出てくると考えたからである。もう1つは、R-MobileシリーズとR-Carシリーズがほぼ同一のアーキテクチャを用いていたためだ。両SoCのアーキテクチャは、アプリケーション処理用にARMのプロセッサコア「Cortex-A9」を、映像などのリアルタイム処理用にルネサスの「SH-4A」プロセッサコアを用いる構成なので、製品の企画/設計/開発のリソース共有が容易だ。
なお、車載情報機器向けSoCのマーケティング機能は、2011年からルネサス本体に戻っており、車載用のマイコンやアナログICなどと連携した製品展開を前面に押し出している。
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