Appleの「iPad」のように、製品のコンセプト自体が新しくなくても、市場投入のタイミングさえ間違わなければ、大ヒットを飛ばせる可能性はある。今、Googleでは、Chrome OSやAndroidを搭載したノートPCのような新製品の開発に向けて、機運が高まっているという。
Freescale Semiconductorは2010年1月に、ARMのCortex-A8を搭載したプロセッサをベースにした、スマートブックのリファレンスデザインを発表した。このリファレンスデザインは結局、市場に投入されるには至らなかったが、再びチャンスが巡ってくる可能性もある――。
こう語るのは、AMDの元経営幹部で、現在はMoor Insights & Strategyでアナリストを務めるPatrick Moorhead氏だ。筆者も、Moorhead氏の見解におおむね同意している。
AT&Tは、1993年にタブレット端末「EO Personal Communicator」を発売したが、大きな成功は得られなかった。一方、Appleが2010年に発売した「iPad」は大ヒット製品となった。だがiPadは、言ってみれば、EO Personal Communicatorのチップとディスプレイ、ソフトウェアを改善しただけの製品にすぎない。Appleの成功のカギは、製品コンセプトではなく、製品の投入時期の見極めにあったのである。
ARMベースのノートPCにも、同じことが言えるかもしれない。問題は、製品コンセプトの善しあしではなく、機が熟しているか否かなのである。
そして、“その時”は2014年かもしれない。Androidはスマートフォンやタブレット端末で急成長し、モバイル界の“Microsoft Windows”と言われるほどに普及した。一方で、Windowsそのものは不振が続いており、「Windows 8」のARM版である薄型端末向けOS「Windows RT」は、特に厳しい状況にある。
Moorhead氏は、x86版とARM版の2種類のWindows PCを使用しているが、x86モデルは動作が遅くなるときがあるという。この現象は“Windows Rot”と呼ばれ、ノートPC向けの標準的なアプリケーションが動作するために必要なメモリや電源が不足することで発生する。しかし、「NVIDIAのクアッドコアARMプロセッサ『Tegra 3』とWindows RTを搭載したタブレット端末と比べれば、格段に使いやすい」(同氏)という。Moorhead氏は、「同モデルには、まともなローカル/クラウドアプリケーションすら搭載されていない。Windows RTはもはや、絶滅の危機に瀕している」と述べる。
もちろん、Microsoftは、こうした状況の改善に取り組んでいる。Moorhead氏は、「まず、電子メールクライアント『Outlook』とクラウドストレージのサポートが改善されるだろう」と見ている。いずれにせよ、Windowsが不振でAndroidが堅調であることに変わりはない。こうした状況が、ARMベースのノートPCにとってチャンスとなる可能性もある。
現在は、Qualcommの「Snapdragon」やNVIDIAの「Tegra 4」など、Freescaleが数年前に発表したアプリケーションプロセッサ「i.MX」よりも、はるかに強力なARM系プロセッサが投入されている。また、Androidは成熟しており、Googleから提供されているクラウドアプリケーションも多い。
機器メーカーがARMベースのノートPCを、フルキーボードと大容量バッテリ、統合された周辺機器を備えた、Androidタブレットのプレミアムモデルとして発売すれば、コスト意識の高い消費者に素晴らしい製品と受け止められるだろう。だが果たして、Googleは、“Wintel(Windows+Intel)”の「Ultrabook」に続くことを目指しているのだろうか?
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