情報通信研究機構はドイツ物理技術研究所と共同で、時間の基になる「秒」を定義する新たな基準として注目されている光格子時計について、通信衛星を用いた新手法の大陸間直接比較実験を行い、9000km離れた日本とドイツの光格子時計が625兆分の1の精度で一致したと発表した。
情報通信研究機構(以下、NICT)は5月27日、ドイツ物理技術研究所(以下、PTB)と共同で、時間の基になる「秒」を定義する新たな基準として注目されている光格子時計について、通信衛星を用いた新手法の大陸間直接比較実験を行い、9000km離れた日本とドイツの光格子時計が625兆分の1の精度で一致したと発表した。この手法は今後、光による1秒の再定義が行われたとき、光格子時計に基づく時間を国際標準として維持するための有効な手段として期待できるという。
現在の1秒の定義は、セシウム原子が共鳴する約9.2GHzのマイクロ波遷移の周波数に基づいており(セシウム標準)、NICTが生成している日本標準時も同様の定義を利用している。だが近年、数百THzに及ぶレーザー光の高い振動数をカウントすることにより、さらに高い精度で時間の基準を生成できる光格子時計が開発されている。そして、この光格子時計を使って新たに秒を再定義することが議論され始めている。
しかし、光を用いて新たに定義した時間の基準を国際標準として運用するためには、国際的に同じ長さの1秒が生成されていることを、現在よりさらに高い精度で定常的に確認できる必要がある。そのための比較手法の開発は、光格子時計の開発と同様に秒の再定義への必要条件になっていた。
現在、秒の再定義への有力候補と見なされている光格子時計は、ストロンチウム光格子時計で、日本、米国、仏国、独国の4カ国で利用されている。ストロンチウム光格子時計が、現行のセシウム標準を上回る精度で同じ1秒を生成できることの比較手法については、NICTが2011年8月に、光ファイバーリンクで国内の2つの光格子時計を接続する実験を成功させたため、日本国内に限っては証明されている。同実験で確認された1400兆分の1の精度に対して、大陸間での実験では現行のセシウム標準を用いるため、秒の再定義には不十分な300兆分の1秒程度までの精度での一致しか確認されていなかった。
今回NICTとPTBが発表した新手法は、セシウム標準の300兆分の1を上回る625兆分の1の精度で一致を確認することができた。衛星通信を利用しているので、現行のセシウム標準を経由せずに地球規模での高精度な比較が可能であり、次世代の国際標準として利用する可能性を実証できたという。
NICTは翌日の同年5月28日に、東京都内で理事長記者会見を行い、今回の新手法の発表を含むNICTの標準時制定への取り組みについて説明。電磁波測定研究所 時空標準研究室 室長の花土ゆうこ氏は、「今後、今回開発した比較手法や伝送装置に改良を加えることで、さらなる精度の向上を目指す。このような極限精度の光標準は、GPSなどの高性能化、高精度の地殻変動観測、重力場測定による資源探知など、新たなイノベーションを創出できる可能性を持っている。また、量子論の限界に挑み、相対性理論の時空概念を具現化する極限の測定精度は、科学の新たな地平を切り開く可能性も大きい」と語った。
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