選手を抜き去るイメージをしている際の2人の脳の活動の様子を解析すると、ネイマールは脳のさまざまな部分を連携させながらプレーを考えているということが判明した。一方、JS氏は脳の一部の領域だけを使っているという結果となった。
内藤氏はこの結果を受け「ネイマールは脳のさまざまな領域を利用してどうプレーするべきかを考えている。これにより、運動レパートリーの切り替えや選択、状況に対応して運動プログラムを更新する力が高い可能性を示唆していると考えられる」と説明した。
また内藤氏は、ネイマールの脳にこうした特性が備わっている理由について、「ネイマールに幼少期について聞いてみたところ、7〜9歳にかけていつも家の中ではだしで遊んでおり、常にボールに触れていたと話してくれた。いわゆるゴールデンエイジと呼ばれる7〜9歳の脳の成長が活発な時期に、こうした豊富な足運動の経験を蓄積したことが脳の成長につながったのかもしれない」としている。
内藤氏は、ネイマールの脳を解析した事例の他、脳の運動効率を高めることで「学習の頭打ち」を打開するという研究事例を紹介した。学習の頭打ちとは、スポーツなどにおいて練習を重ねると初期段階では効率よく上達するが、次第に実質的な改善がなくなる状態のこと。脳に外部からの刺激を与えることで、こうした状態を改善できるという。
内藤氏は、被験者に片方の手のひらの中で、2つのボールを15秒間にできるだけ多く回すという課題を与えた。1週間の練習期間を設け、被験者のボールを回す技術の向上が頭打ちになった状態で、今度は神経に微弱な電流を流しながら同様の課題を行ってもらう。すると、電流の刺激によって脳の運動制御において重要な部位が活性化し、ボールを回す回数が飛躍的に改善するという結果が得られたという。
また、内藤氏は脳に運動体験を錯覚させることで、効率的なリハビリテーションを行う方法も研究している。脳は運動しているという感覚を、筋肉の収縮を感知する筋紡錘から得ている。この性質を利用し、筋紡錘にバイブレーターなどで一定の振動を与えて脳に「運動している」と錯覚させることで、運動野などの運動中枢を活性化できるという。
人間の脳は、手や足を使わないと次第に動かし方を忘れてしまう。そのため、けがや病気などで手足をしばらく動かせなかった場合、リハビリテーションにとても苦労するという。しかし運動錯覚を利用すれば、けがなどで手や足を物理的に動かせなくとも脳の運動野を活性化させられるため、“脳が動かし方を忘れてしまう”という状況を改善することが可能になる。
また、この運動錯覚を利用するリハビリテーションは、簡単なバイブレーターさえあれば特殊な技術を持たない人でも行えるというメリットもあるという。内藤氏は、既にこの運動錯覚を用いたリハビリテーションの臨床実験を行っており、有効性を確認できた事例もあるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.