ところで、筆者は最近、センサーモジュールが組み込まれた、ブラウンの「Oral-B(オーラルB)」という歯ブラシを見つけた。Oral-Bには歯磨きが上手にできているかどうかを知らせる機能が搭載されていて、その情報をスマートフォンに転送できる。スマートフォンのアプリで、あと何分くらい磨き続けた方がよいか、どの歯に磨き残しがあるかといった情報を見ることもできる。
まさに、人格を持たないIoT機器が人の生活を指導しているのだ。こんな風に行動の全てを指導されることに魅力を感じる人がいるのだろうか。
学校を卒業してからは、親元を離れて生活する人も多い。それはつまり、親の監視下に置かれない状態だ。筆者が実家を出て独立したのも、親の監視から逃れたいということが大きな理由だった。
それなのに、私たちは今、自分の行動をチェックするものを求めている。行動を監視するのは、以前は“人”だった。それが“アプリ”に代わっただけのことだ。だがこれは、母親に常に監視されているのと同じではないのか。さらに、それだけでは飽き足らず、IoT機器が追跡/収集/分析したあらゆるデータを喜んでシェアしている。
IoT機器には、プライバシーの問題も絡んでくる。現時点では、IoT機器が収集した個人データが十分に保護されていないことに異議を唱える人は少ない。これは、筆者には理解しがたい状況だ。今この瞬間にも、データの仲介業者がわれわれのセンサーデータを入手しているかもしれない危険性に、考えが及んでいないのだろう。
筆者の考えは、被害妄想が大きすぎると感じる人もいるだろう。ただし、健康データに関して意識しておいた方がよいことがあるのも事実だ。
Financial Timesは2013年夏に、米国のウェアラブルヘルスケア企業であるBodyMedia(2013年夏に米国のJawboneが買収)が開発した特許について報じた。この特許は、「lifeotypes」というBodyMedia独自のプロファイルに関連している。lifeotypesとは、リアルタイムの健康データと、健康記録や個人の体調、ネット購入履歴といった他の情報を組み合わせた個人プロファイルである。
この記事が恐ろしいのは、近い将来、ウェアラブル機器ベンダーやデータベース企業、データの仲介業者などが、糖尿病に罹患している、妊娠している、コレステロール値が高いといった個人データを健康データと組み合わせたプロファイルを作成し、年齢の予想や病気の予測といったさまざまな目的に使われる可能性があるということだ。
Morgan Stanleyが、ウェアラブル機器の全てがバラ色だと見ているわけではない。同社は、ウェアラブル機器の導入についていくつかの制約を挙げている。データの正確性、機器のデザイン性、使い勝手、そして“スマートフォンからの独立”である。目新しさがなくなれば、ユーザーがウェアラブル機器に飽きてくる日が来るかもしれない。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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