本原稿のレビューを頼んでおいた後輩から、電話がかかってきました。
江端:「どうだった?」
後輩:「これまで江端さんの原稿のレビューを続けてきましたけど、このコラムは、史上最悪ですね。近年まれに見るひどさです」
江端:「……え?」
後輩:「江端さんは、このコラムで一体何が言いたいんですか」
江端:「何がって、要するに、この環境シリーズの検討でずっと気になっていたことを、この番外編の最終回として……」
後輩:「今回の話の、一体どこに『環境問題』の要素があるのですか? 自分の得意テーマに引き来んで、数字を回して、我田引水にも程がありますよ。だいたい、こんな複雑な計算プロセスを、読者が本当に読むと思いますか。私ですら、全部読み飛ばしましたよ!」
江端:「おい、こら待て。私が死力を尽くして1週間をかけて算出した計算結果を、全部読み飛した、だと……?」
後輩:「それに、『(付録2)「16年遅延モデル」に関する再検証』。あれは一体何を言いたいんですか?」
江端:「何をって、『大変良いご指摘をいただいたので、ご回答申し上げます』という気持ちから、その後の検討結果をお知らせしているもので……」
後輩:「そして『(付録1)連載1年を振り返って』の内容の落とし方が、なんかキレイ過ぎてウソくさい。本当は、もっと、声を大にして言いたことがあるんじゃないんですか? なんか、こう、巧みに言いたいことをオブラートで包んでいるというか……」
江端:(ふーん……)
後輩:「つまりですね、今回のコラム、江端さんのパッションが感じられないんですよ! パッションが! パッションのない江端さんのコラムなんぞに、一体何の価値があるというんですか? そんなものトイレの尻拭き紙ほどにも価値はありません。 駄目です。却下です。差し戻します。全部書き直してください」
江端:「いや、でも、締切まで、あと6時間……」
ブチッ! ツー、ツー、ツー……
お詫びと訂正:本稿は当初、日本の1日当たりの総エネルギー量を「広島型原子爆弾6個分相当」としておりましたが、再計算の結果、「広島型原子爆弾600個分相当」ということが分かりました。お詫びして、訂正致します。
※本記事へのコメントは、江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。
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江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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